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Column

「宗達はじまる」と「光悦はばたく」

 「宗達はじまる」は私の処女作である。先日、ホンダ時代の先輩から本書を読んだという報せをいただいた。親切に感想をメールで知らせてくれた。読むために1000円近いお金を支払ってくれたので恐縮し、お礼のつもりで鎌倉小川軒のレーズンクッキーをすぐに贈った。お金に見合ったことに自信がなかったからだ。もう7,8年前に書いたものなので内容を忘れてしまったのだ。
 そんな事から今回再読してみたのだが、手前味噌だが、どうして、どうして処女作ならではの勢いがある本だと思った。書いた本人がよくこれだけのものが書けたな?と思ったのだ。再読して感じるのは広範な知識をベースにした物語であるということで、小説のずるいところと感じている冗漫なトークがなく、そのトークも簡潔であることを心掛けているようだ。
 今さらながらよく調べたなと思ったが、その点はホンダ時代の先輩も気づいたようであった。この本は多分にその道の専門家なども読んでいるに違いないと思っていた。というのはネットで見ると宗達関連の読書ページには明らかに宗達研究の先達の本の間にまぎれて本書が紹介されているからである。
 本書を書き上げるのに3年くらいかかった。内容はともかくディテールはすっかり忘れているので、そうなると怖いもので困ったと思いながら、引くに引けないところまで来ている。ネット上での辛辣な批評は嫌なものであるからだ。恐々再読したのである。
 
きっかけは勿論、先輩のメールであるが、もう一つ新作が一向にはかどらないストレス回避もあった。何をどう書いてよいのやら分からなくなっているからでもある。
こんなことだ、これから足利義満とのエピソードを書こうと思い、もう一月以上資料を渉猟して、これかなという資料をじっくり読みこんだ。これは義満について体質化するという行為で、まあ、身近にいる友人のようなところまでその人物の性格、能力、実績などを感想、評価できるまでになるようになったのだが?正直、そこまで行っても書けない。何かが障害になっているのだ・・・・結局、格好のテーマを発見し、それを当てはめたが。
 
 新作ではなく懸案の「光悦はばたく・火の巻」という物語なのだ。この本は光悦の本なのだがどちらかというと本阿弥家の話が主で光悦はその中にまぎれているという感じである。物語自体は全部で5つのパートに分かれており、これまで2作まで書き上げて。これから3作目の最終章に入るのだが・・・・終わらせ方がむずかしい。

 しかし、やっと書き終えてこれか3作目の校正に入るがここでもかなり時間がとられるだろう。一月ぐらいは要しそうだ?しかし、難しかった。ハードルが高すぎた気がしている。校正に入っても書き直しなどが出そうである・・・?

「光悦はばたく」、の最大の問題は光悦と本阿弥家が微妙であるという事ある。
というのはある時点から本阿弥家の戦略ポリシーが劇的に変わってきたのである。つまり、一族の価値をどのように知らしめて、それを社会で高め、維持させるかという血のミッションがある時点で明確になりつつあり、それを定着させようとして躍起になっている様が分かってきたからだ。それは松田家から養子の本光を迎えてからと思われる。

現存する松田家は有能な家系だがシンボリックな人は輩出してはいない。したがって、有能さを証明するような家系にするために何らかの手を講ずる必要があった。本来は天下を取るような将軍でも輩出したかったと思われるが残念ながらその分野で頭角を現すような人物が出なかった。とするといわゆる武士の魂である刀剣の分野で天下を取ればいいではないかと考えを改め、本光を送り込んだ。
その策は成功した。なぜならば本阿弥家は将軍家御用達になったからだ。したがって徳川時代はその方法で天下を取ったといえるだろう。しかし、明治になって将軍家が終わりを告げ刀の時代は終わった。ただ、現在でも刀剣分野では本阿弥という名はいわゆる職業上のニックネームとして権威をもってはいる(ただ、血で継承されるものではない)。それは松田家とは切り離された家になってしまったことを意味した。本音は光悦を囲い込みたかったのが本音だろう。
本阿弥光悦は本阿弥家のメインストリームである刀剣などとは関係のない分野の日本美術の本流でもある、書画、陶芸、工芸などで日本史に残る輝かしい存在になったからだ。一方、正統本阿弥家は将軍家御用の刀剣鑑定家として歴史に残る存在になった。松田一族は光悦の家を本阿弥家の分家などにはせずに松田姓にして、松田光悦と名乗って欲しかったと思っているに違いない。
 したがって、その後に本阿弥家では本阿弥家の女を俵屋宗達と結婚させて?その家系図に稀代の天才を組み込んだが、どうも家系図の改竄のような感をぬぐえない。

・・・今回の分かりにくい内容は今後の「光悦はばたく」中で解きほぐすつもりである。
                            2023年5月29日T.I

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