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Column

チェロ第2楽章のおわりに

 チェロをやり始めて10年になる。68歳からやり始めた。第一楽章はヤマハの音楽教室のチェロ科に行く。そこはグループレッスンであった。最初は4人くらいいた。年齢はまちまちで高齢のベテランの2名と初心者の2名、私とS氏である。プログラムは4名での合奏と一人一人の課題曲で約一時間のレッスンであった。
 合奏はカラオケで行うので楽しい人には十分満足の行く時間だったかもしれない。ただ、合奏は一人でも遅れた人がいるとその人に合わせるために他の3人にとって、次の課題曲に行けずにうんざりするのは練習をしない生徒に合わせるためだ。後半のいわば個人レッスンは一人一人に教師が対応するのだが、たかだか10分くらいしか見てもらえない。したがって、この時もBACHではなくヤマハの教則本の中の曲を練習することになる。私はヤマハ音楽教室に2年間通ったがここに何年いてもBACHのチェロソナタは練習できないことが分かり、教室を変わることにした。

 次の教室の選択基準はBACHの「無伴奏チェロ組曲」を練習できる教室で完全に個人レッスンを受けたかったので絞りやすかった。このような教室は著名な街にはあるものだ。そうなると藤沢か鎌倉、横浜であろうと思ったがこれまでと同じ藤沢に格好の教室が見つかった。私はチェロ歴2年で藤沢のヤマハ音楽教室に行っており、このたび個人レッスンを受けたいという希望を話すと、格好の先生がおりその人に会って、その際にはチェロを持ってきてほしいと言われた。
半月ぐらい待ってチェロを持って行った。教師は女性であり、BACHの無伴奏チェロ組曲を弾くことが目的であるということを言って、そのためのカリキュラムを組んでほしいと述べた。それにあたり2冊の教則本とバッハの無伴奏チェロ組曲フルニエ版の3冊を購入し、レッスンに入った。念願の無伴奏チェロ組曲の第1番に入ったのは半年くらいしてからであった。
このBACHの第一番はチェロ曲で最も有名な曲で多分、だれもが聴いたことがあると思うような曲である。チェロを始めたのはこれ故であったのだ。私はそのころ毎日3時間半練習していた。内容は2冊の教則本とBACHの楽曲である。私はそうやって約7年間その教師の下で練習をしたおかげで第1番全曲(6つの組曲)と3番の5曲の計11曲と現在2番のプレリュードを練習中である。ただ、BACHのこの曲は6番まであるのでその半分しかマスターできないことが分かった。これは少々残念なことであるが68歳から弦楽器に挑戦した限界であろう。私はそれが分かってからともかく無伴奏チェロ組曲の3番までの3組曲(計18曲)をきちんと弾くことに注力しようという方針に変えたのである。

 ここからが本稿の主題である。チェロという楽器は弦楽器であり、一般的に一番難しい楽器と言われている。そして、それは分かっていたのであるが、いざその問題が分かるために10年の歳月を必要とするという悲劇が待ち構えていたのであった。

 私の場合は第一ポジションでしか練習をしなかったのでどんな曲もその第一ポジションで出る音で曲を弾いたのであった。そうなると音は出ても音質がそろわなくなる。たとえば、開放弦と同じ指で押さえた音とは音程は同じでも音質は異なるからである。BACHの2番のprelude を弾いた際どうも納まりが悪かった?素人耳に聞いても何かがおかしい。いろいろ努力しても音楽にならないのだ。一月ぐらいして万策が尽きてフルニエの指番号通りのポジションを探して数小節弾いてみると何となく音楽になってきた。これだ!と思った。
 私は10年間チェロを練習してきたのだが第一ポジションで弾く練習しかしてこなかったし、どうしてもそれ以外のポジションを使わないと弾けないようなフレーズになると先生が親切にも?教えてくくれたからであった。今となってはその親切が仇になったのだ。有難迷惑の親切であったであったのだ!素人が趣味で弾くには第一ポジションの運指だけ覚えられれば良いだろうくらいに思ったのだろうか?
 私は残り少ない人生のために現状の先生のレッスンを辞める選択をした。自分が弾きやすいポジションで弾けばいいのですよという甘い言葉にほだされた結果とんだ目にあってしまったのだ。というのは、70歳で始めた時にきちんとバッハを弾きたいなら第一ポジションから例えば第五ポジションまでの運指を覚えてください。といわれたら違った結果になったのではないかと思われるからだ。
77歳のチェロ練習生にとってあと2つの同音異ポジションを探すのは大変な苦労なのである。自分の余命との勝負であり、もうやり直しがきく年齢ではないからだ。まあ、それでも気づいてからひと月くらいでフルニエポジションのBACHの2 番のpreludeをほぼ弾けるようになったからである。そして、これを機に新しいチェロの教師を探がしたいと思ってはいるが?どうだろうか?・・・・これからチェロの第三楽章がはじまるのだ。
                            2024年1月8日T.I

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