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Column

「光悦がはばたく」のはいつか?

 そもそも光悦を主役にした小説を書こうと思ったのは処女作ともいえる「宗達はじまる」を書いた勢いから次は光悦を書こうか?と思ったのがきっかけである。
彼は宗達ほど謎の部分がないが松本清張の「日本芸譚」を読んで、結構、嫌な奴だったのだな?と思いながら俵屋宗達とのかかわりも誰よりもあるうえ、何か光悦を書くことで逆に宗達の新しい発見のようなものもあるのではないか?との期待もあり光悦を主人公にした物語を書く気になった。事前の調査で光悦が本阿弥家の人物なので、家系図が残っておりそれを見るとその始まりが公家の五条家から出ていることなどがわかり、人間の才能は遺伝的に継承されるのであろうから、その五条家の血が何百年後に光悦によって花開いたというような物語は面白そうだとのことから、俄然、書く気になったのである。

光悦の始祖にあたる五条長春は文和2年(1353年)に100歳で亡くなっているので1253年の生まれということになり、鎌倉時代、執権北条時頼の時代に生まれたことになる。今から考えると光悦は寛永14年(1558年)に生まれているので305年に光悦の歳を加えると80年を加え385年の物語を書かねばならないことなる。
そんな長い期間の小説など書くことは普通の感覚ではありえない。普通の感覚とは一般的なプロの作家ということである。鎌倉時代、室町時代、戦国時代、江戸時代の四つの時代にまたがった小説を書くなどということ?オムニバスで鎌倉時代の一つのエピソード、室町時代の一つのエピソード等々個別のテーマごとに書く手もあったかもしれない?
そこは無知な素人作家の悲しさで、なんとも四つ時代の連続大河小説なのである。

 後で読んでみると前に書いたことを忘れてしまって同じようなことを書いていたり、年代の数字の整合性を取るのも苦労する。数字の整合性の欠陥は誰でもわかるのでごまかせないのだ。当時の日本人の平均年齢が分からないことや生存率などが分からないからイメージがつかみにくいのである。
 物語は五輪の塔の地・水・火・風・空の5つに分けてあり、現在、風の巻きを書いている。時代は1401年から1491年である。したがって、光悦が登場するまで67年ある。飛ばせばいいのではないかと思う節もあるだろうが70年近く飛ばして書くとまったく脈略がなくなってしまうし、まず、主人公も全く違ってしまうのでその人物像を形作る難しさ、唐突さが私の筆力では書ききれない弱みがある。神経衰弱に陥りそうな状況の中でとんでもないことになっているのだ。
 ただ、現在の刀剣ブームのせいか、最近、読まれる方が増えつつあり、それを考えると簡単に匙を投げるわけにもいかず、まさにゴルゴダの坂を重い十字架を背負い歩いている心境なのである。このような長編は基本的に何らかのイベントを中心に物語を書いてゆき、それが終わったことで物語が前に進むという感じなのだろう、その内容で一年であったり5年であったりするものなのである。したがって、イベントが豊かであればあるほど小説は面白くなると思うのだが、室町時代で面白そうなイベントを渉猟するというのは並大抵の事ではないので苦労している。そのあたり正直、不勉強以前の辛さでそもそもまさに未知との遭遇というか困った状態に陥ると何日間何も書くとことができなくなる。

 先日、上野で開催された「本阿弥光悦の大宇宙」展のような催しがあると何らかの新しい知識やヒントが得られて助かるというモノである。これから本阿弥光悦を書くので物語のネタは幾分豊富になった気がしないではない。しかし、この調子でいくと風の巻きを書き上げるまであと2か月くらいはかかる気がするが何とか終わらせたいと思っている。最初の「地の巻」を書き始めたのが2020年4月であるのでもう4年たっているが、最後の空の巻をいずれにしても2025年の末くらいで脱稿できればしめたものである。
                              2024年3月18日

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