ブランドワークス

Column

ワーテルローから死の都へ

 夜の8時30分頃、娘からラインが入った。リドリー・スコット監督の新作「ナポレオン」という映画が面白そうだ?ということなので、「観に行くのか?」と聞くと「ちょっと興味がありまして」というようなことなのだ?・・・
私は少し考えてから「以前、りりはナポレオンの有名な戦場である。ワーテルローに行ったことがあるぞ」と、返すと「覚えていない」というのでアルバム棚でベルギーと書いてあるアルバムを探した、探しても見つからない。まずベルギーという項目のアルバムがないのだ。だいぶまえのことなので?と考えるとアルバムのタイトルは国別にはなっておらず、地域名になっていることを思い出し、それなら「ブルージュ」という項目で探せばいいと思い、探しあててアルバムを広げてみると丘の頂上にあるモニュメントであるライオン像がある。そこから見たワーテルローの平原全体の写真を探し当てて、スマホで撮影してラインで送ると「おデブだこと!」という返答が来る。そこに映っていた小さい頃の自分の写真の感想である。

我が家の旅行は行きたい町を決めて、旅行代理店に足とホテルの予約をしてもらうというやり方なのでツアーで行ったのは最初のヨーロッパ家族旅行でいった「オリエント急行で行くロンドン・パリ」だけだった。娘が3歳の頃である。当時、日本人の小さな女の子を街中で見かけることがなかったので日本人の小さな女の子が珍しかったようで街中で微笑みをもって迎えられたようであった。

ワーテルローは家内の話を聞くとベルギー市内からバスでいったようであるが、そんなところに足を運んだのは多分クラウセビッツの「戦争論」を読んでいたので行きたかったのだろう。ここでの戦いの展開と敗北の理由をあるクライアントに説明して、そのクライアントのビジネス上の戦いの将来の結果として話した記憶があったからだ。私はワーテルロー全体を俯瞰できる場所に立ち、どこからイギリス軍の分隊が攻撃を仕掛け、撤退し。次の分隊が今度はどの辺から攻撃を仕掛けたのかなどを遠く見ながら想像した。ここでのイギリス&プロイセン軍の戦いは見事なものだった。それはナポレオンの想像もつかない戦略に基づいたものであったからだ。多分、娘が興味を示したリドリー・スコットの映画ではそのあたりが描かれるのではないか?

しかし、この旅行の目的はワーテルローなどではなくブルージュなのだ。ここを「北のベニス」と呼ぶという話を聞いたが確かにこの町は運河上を船で動くことができる。ブルージュに行きたがった理由は以前「セゾンドノンノ」という季刊の女性誌で見たからで、昔から船で街中を行き来するというような街に憧れに近いものを持っていたからである。ブルージュはベニスに比べるとスケールは小さいが素晴らしい街であった。それは当たり前の話でブルージュは街であるが、ベニスは国であるからだ。

ベニスに比べるとブルージュは何となく暗い印象があるのはベニスがイタリアの太陽に照らされたイメージがあるからと思われるがよく考えるとそのような気象学的なことではなく文学的な理由からなのではないと思われる。
ブルージュが有名になったのはジョルジュ・ローデンバックというベルギーの詩人・小説家の書いた「死の都ブルージュ」がこの町のイメージを形作ったからである。妻の死の焦燥からブルージュを訪れ、そこで生前の妻にうり二つの女と出会うという小説なのだが、そのタイトル「死の都」がこの町のイメージを決定付けたようであるが、どうもその街はそれ以上のキャッチフレーズが思い浮かばなかったようである。私たちは夏にブルージュに出かけたのだが、確かに晩秋や冬に出かけたらそのキャッチフレーズはぴったりするかもしれない。この町の観るところと言えば修道院や教会が主で、私は旅行案内書にオードリー・ヘップバーンが主演した「尼僧物語」に出てきた家があるというのでそこに出かけたくらいで、それすらも死に近いからである。

北のベニスと言われたブルージュはベニスと違い海から15キロくらい内陸にある町で昔はベニスと同じような海に面した街であったようだが長い間に土砂などが堆積して陸地になり海から離れた町になったという、4,500年で完全に内陸の町になったと言われるが地図で見ると海から運河でブルージュまで行けるようである。
私たちが泊まったホテルは大きな行き止まりの運河の中ほどにあったホテルで行き止まりにこの町で活躍した大画家のファン・エイクの銅像がある特徴的な運河のほとりにあったホテルで、庭に伏した男の石膏像がある何となく不気味なホテルであった。この小さな街に3泊くらいしたのだろうが十分に街を堪能できるくらいの小さな町であった。多分、晩秋くらいに来たら別の意味で無限の時が楽しめたかもしれない。ここに来る前にローデンバックを読んだのではなく、戻ってかなりたってからその本を読んだのでブルージュの印象はセゾンドノンノとバケツに入ったムール貝のランチの記憶しかないのが笑ってしまう。ただ、頭の中で季節を入れ替え、時間を入れ替えるともう一度行きたい気がしてくる街でもある。
                               2023年12月4日

Share on Facebook