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 鎌倉殿の13人

 鎌倉に住んでいるので一応、見ておこうというスタンスで「鎌倉殿の13人」を見ている。ただ、三谷幸喜氏の脚本ということで多分に引き気味であることは確かだ。それは彼の現代という時代の匂いをかぎ分けて歴史的事実に色付けしている方法が時として?と思うこともあるからだ。
 しかし、今回は彼のその時代を読み取るセンスの凄さをあらためて感じさせる一話があった。というのは昨夜(7月17日)の話、頼朝が亡くなって二代将軍頼家をサポートして幕府運営を行う13人を選ぶテーマ。
 時に現実はまさに政権自民党最大派閥の長である安倍元首相の死と奇しくも一致している状況だったからだ。三谷幸喜氏は安倍元首相の暗殺を予期していたような気にさせられたのである。単なる偶然とは思えないくらいの話でネットをなどでは「安倍殿の5人」か?などというコメントを苦笑いしながら昨夜に読んだ。
 
売れる小説というのは時代のニーズを的確につかんでいるものである。つまり人々がこの瞬間に抱えている問題や心境にフィットしているテーマについて書かれているからだ。そんなことから言うと三谷氏の「鎌倉殿の13人」がどのような発想から書かれたものかを考えることは興味深い。
 このドラマは北条義時というごく平凡な、とりたててずば抜けた能力もないごく平凡な武将が日本という国家の運営に成功した物語なのであろう。本来、その役をこなすにはあまりにも貧弱な人物である。というのは本来その位置に立つ人物はカリスマ性のある織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などの人物であり、北条義時ではあまりにも役不足だからである。したがって、本来、源氏三代が亡くなった後、国家の為政者が変わるはずなのにその後150年間近く持ったのはなぜなのだろうか?という疑問から、このドラマが書かれたと思われる。そして、その意味で現代の日本もカリスマ性のある人がいないわけだから、鎌倉幕府の成り立ちが現在の日本とフィットするではないか?いわゆる同時代性は十分あるはずだと感じて、このドラマは書かれたのであろうと思われる。
 そのあたりの勘の良さは見事である。確かに鎌倉幕府の発端はカリスマ性のある源頼朝という人物が出て幕府の発端をつくった。しかし、源政権が三代で途絶えたあと、ごく普通のちょっとだけ能力がある誰かが国家運営をやらざるを得なくなる。
 いわゆる、カリスマ性のある頼朝時代から彼のマネージャー的存在だった義時がそのゴタゴタの時にミニ頼朝である頼家を支える13人の最高指導部を考えだして基本的に集団指導制に持って行こうとして元老の13人を選ぶ。頼家は自分を信じないのかと言って憤り、自分と同年齢の集団を勝手に選んで、自分の意志を通そうとする。
 この先は来週以降だが現実には頼家は殺され、13人も内輪もめで殺され、残るのは得宗家と言われる北条義時の血統に連なる人物がその後100年を治めることになるのだが、そうなった要因は政治能力があった一家だったからだ。しかし、それだけでは常に誰かから足を引っ張られ、行き着くところ殺戮が鎌倉時代のお家芸となる。そう考えるとこの方法は現代まで続いている。
・それまでは天皇や特別の家系の人物が国を治めるのがしきたりであったからだ。しかし、鎌倉幕府を支えた北条家の存在はともかく国の統治を天から引きずり落としたことには変わらない。
 それ以後、草履取りであった男でも最高統治者になれる時代に変わった。秀吉の時代はそんな民主的な、だれにでもチャンスがある時代になったのだ。ただ、集団指導制にはなっていない。秀吉の意向で何でもできる時代であった。それがともかく700年近く続き、明治になって日本は国を治める方法として議会制を知る。しかし、国の運営は国民の意志によって行われるべきだという考えで国が運営されるまで、そこから100年の時間と国の統治権の全てを失った敗戦を経験してのことであった。日本というこの国家を考えるとロシアや北朝鮮を変える方法は目に見えるようにわかる。そこには世界の問題国であるロシアや北朝鮮の教科書がある気がしないではない。

 鎌倉殿の13人のその後はどうなるのか、私は運よく、この時代を駆け抜けたのでどうなるのかわかる。頼朝の末裔と12人が義時の末裔に繋げられ、将軍と得宗家(北条氏)が担っていくことになる。伊豆にあったような地方豪族が政権を担えたのは北条氏の初めの何人かの執権が特別に優秀だったからで、二代義時、三代泰時、五代時頼、八代時宗までである。この四人が鎌倉時代とその後の武家が政権を担うスタイルをつくり上げたのである。
 このようなプロセスで国が成り立った国は他にあるか分からないが、そこを考えると「安倍殿の13人」ではなく「この国のカタチ」の様なエッセイを書けるかもしれない。
                            2022年8月1日 T.I
 
 

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