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Column

【書評】デザイン・マーケティング・ブランドの起源

「泉利治著
デザイン・マーケティング・ブランドの起源―21世紀のビジネストリニティ戦略
                   評者 武蔵野美術大学非常勤講師 岡本慶一

 自動車のデザインと自動車のマーケティングというと、まったく別の仕事と思われるかもしれない。しかし、ライフスタイルのデザインとか都市や地域のデザインというような場合はどうだろうか?モノ(プロダクト)を離れれば離れるほど、デザインとマーケティングは分かちがたく結びついていて、別々に考えることは難しい。ブランドはまさにそうしたモノとしての価値を超えた価値によって存在しているものだ。
 著者は自動車のデザインから出発し、CI,マーケティング、ブランドコンサルティングの仕事に40年近く携わってきた実務家であり、「一見無関係と思われた前職の経験がエラク活きた」という実感が本書の執筆のきっかけになったという。
 本書は、この実感を基にデザインとマーケティング、ブランドが本来「三位一体」であることを、それぞれの起源にかえって検討したものである。「起源」として取り上げられているのは、デザインではレイモンド・ローウィ、マーケティングではラルフ・ローレン、ブランドではチャールズ・ワース。全4章のうち3章を上記3人のビジネスについての検討にあて、最後の1章で「三位一体」のビジネスモデルの構想が示されている。
 ローウィは、日本ではタバコ「ピース」のパッケージデザインや。『口紅から機関車まで』という著書で知られているが、幅広い工業デザインを通して、製品に魅力を与え続けたデザイナーだった。「ヒット商品とはその商品の実力以上に時流を上手くキャッチしたかで決まる」と著者は述べるが、その時流に乗る天才的な感覚を持っていたのがローウィだった。だから、ローウィのデザインしたしたものは間違いなく売れた。ローウィについて著者は、「今の基準でいえばデザイン&マーケティングのコンサルティングビジネス」だったとしている。
 ラルフ・ローレンは、ファッション・デザイナーというより、ライフスタイルのデザイナーだった。そのライフスタイルは、アメリカ社会におけるメインストリーム文化としての「オールドマネー(先祖代々の資産家)のライフスタイル・・・こざっぱりしていて清潔感があり、上品でさりげなく流行を取り入れて、謙虚であるようなスタイル、つまり、文化資本としての「オールドマネーの趣味の良さ」を身につけたひと、身につけたいと思う多くのアメリカ人が夢見るライフスタイルだ。
 最後のワースは、先の2人に比べ、あまりなじみのない名前だ。なぜなら、彼は20世紀に入ってポアレやシャネルによって否定され、乗り越えられた19世紀型の貴族ファッションデザイナーだったからだが、ワースは現代のファッション(ラグジュアリー)ブランドのビジネスモデルの創始者でもあった。注文されてからデザインするという従来のビジネススタイルではなく、先行モデル服をデザインし、定期的にファッションショ―を開き、そこで注文を取るという、マーケティングと一体となったオートクチュールのビジネスモデルだ。それは今に続くパリコレの原点でもあった。
 こうした3人のビジネスを詳細に検討することによって、著者はコンセプト、業務活動、
ブランドインフラの融合した「三位一体」ビジネスモデルを提案している。そうした新しい発想を、旧来の理論や概念を使って説明しようとしているようなところがあるのが残念だが、実践知の形式化を試みた書として、これからのビジネスへの考え方についての新しい視点とヒントを豊富に持った書として推薦したい。」
               
日経広告研究所報 284 号 Desenber2015/January2016 」           

 評者の岡本慶一氏のキャリアを見ると大学で社会人類学を学ばれた後、電通マーケティング局にて消費者調査~企業のマーケティング、コミュニケーションを担当され、その後「企業価値」をテーマに日本企業の組織文化変革を手掛けられたようである。その後企業コンサルティングの手法などを研究開発されたとのことであるが。時代的には私がPAOSでCIに関わっていた頃と時代的にも合致しており、同じ畑で汗を流していたのだ!という戦友のような気がしている。まして年齢も同じくらいなのであるからだ。電通の方々とはいくつかのプロジェクトで接点はあるのでどこかで会っているかもしれない?  

 私は仕事の一線を退くにあたり何か記念になるような本でも出版しようと考えて、タイトルの本を出版した。手っ取り早く本を出版する方法は自費出版である。どうみても、この本に直ぐには出版社がつくとは思えなかった。出版社は売れそうもない本は飛びつかない。その上、無名の著者が書いた本など売れるわけはない。
 2015年に出版したこの本は出版社の配荷力で一応、有名書店に並びますよという事を言われたが、そうなったらいいものだと思った程度で、総数で200冊製本した。その中で著者引き取り分が130冊だったので70冊が店頭に並んだことになる。著者の分はこれまでお世話になったクライアントや友人に配り、現在でも20冊近くが在庫で残っている。
 そして、店頭分の70冊。私は八重洲ブックセンターで自分の本を初めて目にした時の最初の印象は全体的に黄色の本は意外と目立たないという事であった。
その後、出版社の担当者から本社の近くの「書泉グランデ」に並んでいる本書を見て嬉しかったというメールを頂いた。というのは小さな自費出版社の本などはそのような有名書店に滅多に並ぶことはないので嬉しかったという御礼のメールであった。数か月して出版社から6万円くらいの印税が振り込まれた。

 それから、数か月して「日経広告研究所報284号」のブックレビューに書評が掲載された。そして、それがすぐNetに載り私はそれを見て驚いた。それ以上に驚いたのは書評を書いてくれた人は私が常々気に留めていたマーケティング学者の岡本慶一氏だったからだ。というのが私は常に氏の分析や批評に賛同しており、デザインやマーケティング、ブランディングなどに私と何か共鳴するものを常に感じていたからだ。
その後、Netで氏について調べると氏は2017年に鬼籍に入られたではないか、そして生まれは1948年というから私と同世代だ。本当に惜しい人を失くしたと思った。
というのは、いわゆるクリエイティブが経済のメインストリームになったこれからの時代、もっと活躍してもらいた人物である。私のいたって稚拙な経験談ともいえる本に最高の勲章を与えてくれたことは何よりの励みになるというもので、氏に感謝しつつ心から冥福を祈りたい。
 しかし、本を出版するということは相応の責任があるという事なのだ。この本に関しても酷評に近いものもあれば、権威のある専門機関の著名な識者から推薦されることもあるからである。
 そして、この度、この本の改訂版を出すことになった。凄いことは多分、世界一の出版社であるamazon kindleである。そんなことからプロモーションの一貫として、畏敬するマーケティング学者の岡本慶一氏の書評を再び掲載しようと思った。                T.I
2022年 7月4日
                                     

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