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Column

OTTOという男

 高齢化社会の問題はどこの国でも似たような問題を社会にそして一人ひとりに何らかの感慨を投げかける。タイトルにあるプライムビデオで観た映画もそれに正面から向き合った映画である。ただ主役がトム・ハンクスなのでその問題に果敢に挑戦する映画である。
 トム・ハンクス演じる役柄は常に逆境に挑戦する男という共通のパターンである。そして、常にそれが成功してハッピーエンドで終わる。フォレストガンプでは少々、一見知恵遅れの様なのだが尋常な集中力で常人の域をはるかに超えてしまう能力を持った人間を描いたし、フェデックスの社員の飛行機が墜落して無人島で生き残った役でも、エアポートの中で暮らす男も常人では考えられない努力で身に降りかかった苦難を乗りこえる。

 タイトルのOTTOという男は最愛の妻を半年前がんで亡くした、人一倍妻への愛が強い男がその後を追うためにホームセンターで首つり用のロープを買っているシーンから始まるという映画である。この男の人生は出来るだけ早く亡くなった妻のもとに行くというテーマ設定で始まる。少なからず最初の首つり用のロープはセットしたはいいが天井のねじ込んだ金具がOTTOの重さで数秒後金具が取れてしまい死ぬ前に落ちてしまう。そこで生き残り、その結果、生き残り近所の人の世話に忙殺されて、当面、死ぬ機会を逸してしまう。というのは彼の家は部外者が入れないような地域でコミュニティルールが厳しく、管理人でもないのにその遵守をOTTOが率先して厳しく管理している背景があるのだ。
二度目は駅のホームで自分より老いた老人が落ちてしまい、だれも助ける人がいないのでOTTOが線路上に降りて助けてしまう。ところがホームに上がる前に列車が接近する。その時、イイ死に時と思ったOTTOはその列車に轢かれようと決意して動こうとしない。ホームでは皆が声をかける。寸前でだれかが手を差し伸べた、その途端OTTOはその手につかまり寸前にホームに上げられ、また、死に損なう。
 生き残ったOTTOはまたルールを守れない近所の人たちの面倒見ることになる。どうしても死ねない彼は最後の手段として、自分のライフルをあごの下方から脳天に向けて打ちぬくために準備する、しかし、撃つ瞬間にだれかが玄関の呼び鈴を鳴らす。仕方なく玄関に出るのだが、近所の人の緊急用件でまたもや死に損なう。そしてどうしても死ねない苦悶からベッドで悶々としているとベッドの足元に妻の亡霊が現れて、あなたは生きなければならないと説得される。
 それで吹っ切れた彼はそれまで以上に近所の人のために働く事に生きる意味を見出す。その後の活躍はトム・ハンクスならではの八面六臂の活躍で、これまで以上に近所の人たちを幸せにする活躍をする。
 雪が降り積もったある日の朝、向かいに住む若夫婦がOTTOの家の前が雪かきされていないことの異変に気づく。若夫婦が急いでOTTOの家に飛び込む、そして二階の寝室で亡くなっているOTTOを発見する。持病の心臓肥大症で亡くなったのだ。彼のハートが大きいことが原因?というウイットが笑わせる。
彼はデスクの上に遺書を残していた。その遺書には自分の財産等を近所の人たちに残していた事が書かれていた。身近な人達に新しく買ったシボレーやお金や自分の持ち物を全部、進呈することが書いてあったのだ。大げさではないお世話になった近所の人たちの未来を考えた思いやりが心を打つ。
善良な小市民の生き方として自分が生きたコミュニティに恩返しをするという、ごく当たり前のことの大事なことを、かれの死後その人たちがOTTOの墓の前で子供と共に遊んで、OTTOの思い出を語るシーンが教えてくれる。
なぜならば公共団体や大学などに財産を寄付してもOTTOの亡くなった命日にその墓前で手を合わせるなどという事はしないからだ。どちらが良いかはその人の価値観だが、少なからず身寄りのないOTTOとその奥さんの墓に後々までも手を合わせるためにその墓を訪れる人がいることの大事さ、みたいなものに気づかされる。頑固で小市民に徹したOTTOという男の生き方に真実があるような気がしないではない。
                           2023年10月30日

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