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Column

大和幻影

 令和六年の取材旅行の第一弾は奈良の橿原神宮と飛鳥寺であった。
奈良の取材の目的はこの国の成り立ちを知るためである。つまり、基本中の基本を確認するためである。
 橿原神宮は神武天皇が初めてこの地に国を作ったところであるという理由であり、飛鳥寺は最初の仏教寺院であることからであった。難しい理屈は知らないが日本国の場合、天皇と言う神に近い存在がこの地に初めて国家を創ったところであり。飛鳥寺はその国家を支える理念である仏教の最初の拠点であった寺院である。その二つが揃って日本国と言う存在が客観的にも主観的にも成り立ったからである。
修学旅行で物心がついた少年少女を連れていく地であり.理由はそこにあるに違いない。
私は中学校で家業のためにこの修学旅行に行っていないので、あえてその修学旅行の目的がこのようなことを少年少女に教える目的として企画されたのではないかとの思いから、今回、この地に立ったのである。

 橿原神宮のご祭神は神武天皇である。勿論、初代天皇である、と言って、この神社が数多の神社で一番古いかと言うとそうではない。創建したのは明治に入ってからであるので、我が家の近くにある鶴岡八幡宮より七倍も新しい。明治になって、世界に日本国が開かれたときに、国を設立した場所に何もそれがないのはおかしいではないかと言う理由から国を挙げて作ったのである。したがって伊勢神宮や八雲大社に比べると観念的にとってつけた感がある神社のような気がして、期待薄で訪れたことは確かであった。
 ここは橿原神宮前駅から歩いて行けるので、平日の午前に駅から歩いて向かった。人通りがほとんどなく、何となくマイナーな神社?と言う感じで神社前に着いて、その前の広々とした車だまり、そして鳥居を見て、触ってみて驚いた。これだけ大きい鳥居なので柱材がコンクリートか何かと思ったが違って、ちゃんとした木でできている。こんな新しい鳥居でこれだけの木を(檜か?)どうやって手に入れたのであろうか?モノと資金の点で潤沢な資金なくして作れないはずだ?そして、参道の美しさ、両脇に連なる灯篭も木でつくられた立派なものである。というのは鶴岡八幡宮のダンカズラの両脇には石の灯篭であるからで木だと長持ちしないだろうと?思ったからだが、本来、神社は灯篭も式年遷宮があるのか?しかし、よく考えると朽ちる木の方が本当なのではないか?いずれにしても資金が潤沢でないとできないし、その本殿の立派さは半端でない。
 神宮とは天皇を祭る神社なので資金は国家予算になるのか?などと妙なことまで考えるくらいの橿原神宮であった。ともかく、想像以上の立派な神社であった。つい、お札を買ってしまったが?(私の書斎の壁面にもう張るところがないが?)

 次は飛鳥寺だ。歳なのでタクシーを利用する。最初からそのつもりなのだがバスは本数が少ないし、歩いていくには体力がない。何となく田舎の街をタクシーで飛鳥寺に着く。
日本最初の仏教寺院にしては?と思うが周りの景色の中にうまく溶け込んで、かえって知恩院や建長寺のような重厚立派な寺でない方が?と思いなおす。
 入るとすぐに有名な飛鳥大仏を拝むことができる。10人近い小学生たちがその前の床に座ってガイドの話を聞いている。飛鳥大仏は日本で一番古い仏像なのに国宝ではない。理由はお顔の部分以外は焼け落ちて後で簡単に作ったものであるからだそうで。オリジナルの仏像画と比べるとたしかに質朴風情になっている。だがそれゆえかその顔にリアリティがある気がしないではない。また、大仏と言っても東大寺や鎌倉の大仏とは違い、それに比べると大仏とは言えまい。しかし、かえってそれゆえか天平の仏像らしさがある気がしないではなかった。
 見終わって小さな境内を見て裏口に蘇我入鹿の首塚があるというのであぜ道を100メートルくらい歩くと、囲いの中に朽ちた五輪の塔があり、手を合わせた後、その周りを見回すと、これが確かに奈良の景色なのではないかと思うような光景の只中に自分がいることに気づいた。これが奈良だ!?そうなのだ、古代が自分を攻めてくるような気がした。

 ワーズワースの詩「バタシー橋に立ちて」で橋からテームズ川を見て、その先に古代の景色を見て、その古代が自分に押し寄せてくるそんな気分に襲われたワーズワースがその時、書いた詩である。
本来、万葉集の中の歌でも思い出せばとは思うのだがその知見がないのが何とも寂しい限りではあるが、ワーズワースの感じた古代の幻影の方がなまじ、言葉と言う新しい方法で表現するよりもリアリティがあったのである。ただ、ワーズワースはその体験を詩にしたのではあったが古代を語るには言葉より実感がある気がしたものである。

 これから少し万葉集でも嗜むとするか?

                            2024年6月3日

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