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Column

スペースジェットの挫折

 9月4日の朝日新聞の朝刊に「国産ジェット 現実と未来」が掲載された。サブコピーとして「断念 経験不十分だった▪チャンスはまだある」とある。
 三菱航空機が開発をてがけ、2008年に事業化が決定したが、相次ぐ設計変更で
航空会社への納入が6度も延長されるなど難航し、今年の2月に事業化を断念した。
 翼を失った日本にとってYS-11 のジェット機版である。国を上げて期待されたプロジェクトであった。記事の内容を見ると開発母体に対する優しい思いやりを感じたが、私はこれほど見っともない結果はなかったと思っている。門外漢だから言えるのかもしれない、また、記事の内容にホンダジェットとの比較が書いてあったが確かにそれもあるだろうと思われる。
 私は当初から大丈夫かなと思ったのは設計開発母体の三菱航空機という組織のポテンシャルや実力であった。そこが選ばれたのはゼロ戦やYS-11などの歴史に残る名機をつくったという実績があったからであろう。ただ、プロペラ機での実績である、また記事の中にもあるように「最近の航空機にはコンピューターが導入され非常に複雑になり~」とあるようにゼロ戦やYS-11 の経験がどのくらい活かせるのか?逆に足を引っ張るのではないかとの気がしないではなかった。
 その新聞記事にはSJの飛翔している写真が載っているが、私が最初から思っていたのはこの飛行機は何ともみっともない形なのである。それは最初から感じていたことで、どうみても時代の先端を行く飛行機の体をなしていないと思ったのである。正直、こんな見ともない旅客機を日本初とするのは恥ずかしいとさえ思った。それは機体に施されたグラフィックで助長された。
 最後には、なんとなく三菱っぽいなと思ったのだが、飛んでくれればいいなと思った。しかし案の定、飛べなかった!・・・

「有能な航空機は美しい!」というのが私の持論である。たとえばウクライナ軍が喉から手が出るほど欲しがったF-16は初飛行から40年経っているが何とも美しく、今でも世界が欲しがる戦闘機である。私はデザインの仕事をしていたのデザインをする際のイメージソースはF-16 とコンコルドであった。後者はもう飛んではいないが、F-16はいまだ現役で現在、アメリカ空軍は採用していないらしいが、他国の空軍はF-16欲しがっているのだ。量産機なので価格も安いというのだが、要はその機能性の秀逸性ゆえである。
 優秀な航空機の条件は美しい、というのは自明のことだ。なぜそのような事がSJには出来なかったのであろうか?ゼロ戦の優秀性はその機体の美しさにあるということがエピソードとして知られている。設計者の堀越二郎は主翼のカタチを決める時にいわゆる美しさを求めて何度もドローイングを重ね、一番美しい形が一番性能的にも最上の数値だったと言っている。
 航空機においては、先に計算があって、機体を設計するのではなく、先に美しい形状があって設計を始めるというのが基本なのだ。つまり、計算より美のアイデアが先なのである。そう考えると失礼な話になるが三菱航空機の対極にある気がしないではなかった。

 ホンダジェットの成功は自動車ならではの習い性で機体のアイディアスケッチが設計者の方々の頭にあってつくられたのだと思う。現にその手法は自動車を市場に送り出すプロセスと同じなのである。そして、その開発体制や足りない部分の補足の仕方などを設計期間中にアドホックに対応できるのがホンダの力なのであろう。
 昔、ホンダの車に雨漏りの問題が起きてすぐに解決しないといけないことが分かった。ホンダはベンツ社の最新型の車を何台かドイツから船便で取り寄せ、研究所に運ばれてきたと同時に屋根の部分をのこぎりで切り始め、ボディの防水対策や鉄板の組付けを研究したそうであるが、いわゆるそのような現実的な対応をするのが企業文化としてあるのだ。ボディをカットした当事者は、着いた途端に電動のこぎりで新車をカットするのは仕事とはいえもったいないと思ったそうであった
 このプロジェクトに関与する人たちが自分の責任において現実的に問題解決をするという当意即妙性がホンダにはあったのだ。設計の現場とはそのようなものだと思うのだが?
ホンダジェットの開発プロセスを何かで読んだ限りではわからないところはGEなどの協力を仰ぎながらつくり上げたのがホンダジェットで一人ひとりが当事者意識を持っていた気がしないではない。そのあたりの三菱航空機はどうだったのか?誰であれリーダーが一貫して指揮を執っていたなら~という部分を読むと苦渋の経過を感じざるを得ない。

 日本人はどんなモノにも美しさを第一に考えた民族であった。それはコンピューター時代でも変わらない。新聞記事の最後にある「■チャンスはまだある」としたならばその光は世界で最も美しい旅客ジェットを創るという挑戦なのではないかと思う。
                            2023年9月18日T.I

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