ブランドワークス

Column

回想の人とビジネス

 亡くなった人の夢を見る。銀座のソニービル前を横断中に道の真ん中でオリバー氏に会ったのである。彼ははじけるような笑顔で私に挨拶をした。私は多少、びっくりした顔で彼を見つめた。
立ち話をすると、これから食事に行くのだが一緒に行かないかと誘ってくれたので行くことにした。話したいことが山のようにあったからだ。東銀座に近い日本料理の店でアプローチの路地はなかなか洗練された茶室にようであった。
 彼の髪は比較的濃かったのは量が多かったからなので増毛したか?昔の時代だったのか?最初に会った今から30年前ですらそんなに多くなかったので、もっと前の頃なのかと思った。人は亡くなると若い時代に戻るのだ。つまり、あの世ではその人がもっとも幸せだった時代の自分に戻ることができるのだ。
彼は“あとで梁瀬さんもが来るよ。ロンドンのトップを連れてね”と言った。私は一瞬、後ほど英語で挨拶するのか?と思ったのは夢の中でも相変わらず英語が出来なかったからだ。 彼はロンドン元本社のインターブランドでナンバー2として仕事をしていたのだ。

こんな夢を見たのは来週の日曜日に「オリバーさんご夫妻を偲ぶ会」に誘われたからであろう。本来、その後に見る夢のはずだが、一週間先取りしたようだ。私は目覚めてしばらくその夢の事を考えた。ご夫妻の事、彼の事、そして、その彼に馘首を言い渡され、泣く泣くインターブランド・ジャパンを去ったT氏のこと。その後の三人は想定外の人生を送った。望んだような人生ではなかったろう。
インターブランド・ジャパンは実質的に三人で立ち上げたような会社であった。というのは三人が動き始めてから請求書の単位が何百万円から何千万円になったからだ。いわば、三人がいて初めて有能な会社になったのだなと思った。つまり、ネーミングの天才オリバー氏、マーケティング戦略&デザインの私、新規顧客開拓&営業のT氏。だが12年で三人がバラバラになった。結果は三人にとって何もいいことはなかった。
しかし、このような話はよくあることなのだ。あのX社だって現在は創業者がネットの中でしか存在しない会社になっているからだ。その点、インターブランド社はさすがオムニコムグループの一員であり、なんといっても世界一のブランドコンサルティング会社として今も君臨し続けている。
X社は結局、X商店でしかなかったのである。その差は何であろうか?要は時代を超えた会社経営というビジョンを描けるか描けないかの差である気がしないではない。
どうもその差は日本人とイギリス人の差であるかもしれない。日本人は無意識にその前提に日本列島があるようだが?イギリス人は丸い地球儀があるのだ。
インターブランド社の創業者であるジョン・マーフィーの発想はまず、全世界にブランド開発に興味のある奴を探し当て、その彼にその国のインターブランドの支社を任せると言って声をかけたのだ。電話番号とオフィスの住所があれば―何でもよいと言って誘うだけである。言われた方はなんらプレッシャーを感じず、自分の家の住所と電話番号を提供した。そうすると一年かそこらで、世界に支社を持つインターブランドグループが出来上がる。その内、簡単な仕事が舞い込む。たとえば開発したブランドネームのネガティブチェックなどである。NYで開発した新ブランド名をイタリア人にチェツクしてもらうには
電話とFAXで応えてもらえるのだ。そんなことが簡単に、素早く、安価にできる。そんな組織がコストもそんなにかけないで出来てしまったのである。
グローバルネットワークを持ったブランド会社の誕生だ。世界に飛び出そうとしている企業には相談相手として申し分のない存在である。世界でビジネスをしたい企業は相談に行く。世界の各地にはインターブランドの社員がともかく存在する。スペシャリストとしてのスキルは実務を通して覚えればよい。
X社の場合、ニューヨーク支社とボストン支社が出来たがそこは日本の出先機関として存在していた。日本人が聞いても難解至極なX社のビジネス思想?を売り込む出先機関として。現実は日本人でもわからないその戦略理論やビジネスシステムに対してアメリカ人が理解して飛びつくわけはない?
すぐにその支社は数年でなくなった。なぜならば仕事を獲らなくとも日本からの仕送りで会社が成り立っていたからで?日本の経営が傾いたらアメリカの稼げない支社など最初にスクラップの対象になるからである。
その差は何といっても対象事業のポテンシャルのとらえ方だろう。CIよりもブランドという捉えの方が大きくてどの国の企業でも抱えるテーマであったからだ。それにCIは一度やれば半永久的に手を付けなくともよい。CIはその対象が企業のアイデンティティそのものを対象としている。実際はコーポレートアイデンティティはその下位に様々なプロダクトブランドや、技術ブランドをもっているので、CIはそこまで包含しているというが、一般的にはそれはブランディングの分野の仕事であって、CIの分野の仕事ではないと思ってしまうのである。
結果としてX社が構築した、その論理は数年は注目され、数々のサクセスストーリーを生んだがそれらは時代を超えることはできなかったのだ。CIが一巡し、飽きられてしまったからだ。
それに対してインターブランド社が創り出した新商品はブランド価値評価である。ブランド価値は数値で表され分かりやすかった。ブランド価値は数値に置き換えられる客観性を持っており、毎年ブランド価値のランキングが発表された。CIコンセプトのような曖昧な概念ではなかった点で今の時代に会っていた。だれもが楽しみにした。

無くなった人の思い出が思わぬ話になったが、テレンス・オリバーご夫妻の集まりが3月26日に有志のみで開かれる。彼らも出席するに違いない?
                              2023年4月10日T.I

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