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Column

フランシス・レイ

 音楽で私の人生に影響を与えた双璧はヨハン・セバスティアン・バッハとフランシス・レイだなと思う。この二人の音楽は最初に聴いたインパクト、つまり独特な感情が沸き上がる瞬間を最初に聴いた時から変わらず同じ体験が今でも続いている音楽家なのだ。
 音楽とは人に対して心地よい生理的な作用、変化を及ぼすものだと思っている。それはその音楽を聴く度に必ずと言ってよいほど呼び起こされるものである。人間はこのようなモノをたくさん持っている人ほど幸せな人生を送れるだろう。したがって、そのようなものに取り囲まれた人生ならさぞかし幸せな毎日を送れる人生かと思う。
 
 フランシス・レイを最初に知ったのは「男と女」という映画であった。この音楽はクロード・ルルーシェが作った映画のテーマ音楽でフランスの街が舞台の愛の物語である。私はこの特徴的な音楽はそんなに好きにはなれなかったが、それより次の作品の「パリのめぐり逢い」のテーマ曲の方が好きであった。両方ともパリを中心としたフランスが舞台であるのが特徴だが、その街の魅力がそれに寄与していることは間違いない。この映画、制作年度は1966年なので私が20歳の時で、愛に飢えていた頃で?そして、ヨーロッパにも飢えていた頃である。それにもう一つの要素があるとしたら、この映画はかなり自動車が大きな役割をしていた。主人公は確かレーシングドライバーでムスタングが愛車だった。
 フォードのムスタングは当時、世界的なベストセラーカーであった。私はデザインスクールの卒論にフォードムスタングの開発プロセスを取り上げたくらいだったので最初、ムスタングが映画の中で使われていることに“フランス人がアメリカの車を主役車に使うんだ!?”と不思議な感じがしたものであるが、クロード・ルルーシェはそんなフランス人とは少々違って、いたって進歩的なフランス人であったことと、フランスの若い人にとってはアメリカはやはり、憧れの国であったのだ。
 クロード・ルルーシェはこの作品で大成功し、人生がかわったと言っているが「人生は2、3パターンしかなく、人はそれを繰り返し、残酷なまでに同じ道を行く」と言っているようにかれは同様のパターンの映画を作り続けたが、その多くはヒットしたし、それに合わせたフランシス・レイの音楽もヒットしたようだ。

 男と女のDVDを買ったのだがその最後にいわゆる撮影秘話のような制作風景を写したオマケのドキュメンタリーが入っており、その製作現場などが紹介されていた。私はその簡素な撮影風景に驚いた。たとえば車が動いているシーン撮るのに大きなアメ車のオープンカーの後ろのボンネットの上にカメラを据え付けて、カメラマンと監督が後ろの席に座りカメラを回しているのである。フツーのオープンカーなのだ、いわゆる学生がクラブ活動の一環で何かの動画を撮影しているのと変わらないのである。フツーなら専用車などを使うのでは?と思っていたからだ。
その理由はこれまで売れないドキュメンタリー映画の監督であった彼にはお金がなく、この映画会社もスポンサーも付かなかったらしく、いろいろ安上がりの方法を考えて処女作をつくり上げたらしいのだ。その時はフランシス・レイも街のアコーデオン奏者にすぎなかったのではないか?
 しかし、その映画は世界的な大ヒット。人生が一変したようである。そりゃそうだ。
映画の主題が良かったからで、何といってもテーマが“愛”なんだから!全人類の主要なテーマだから裾野のスケールが違うのだ。それからこの二人は常に良きパートナとして共作していった。
 この名コンビである二人には愛の他にもう一つ共通の好きなことがあったとしたらそれは自動車であろう。フランシス・レイは飛行機が大嫌いだったようで地上を這うように動き回る自動車が好きなのだろう。

 その後、本田技研工業からホンダアコードのテーマ曲の依頼があった。それを引き受けた彼はアコードセダンとアコードハッチバックのテーマ曲を作った。ホンダはそのレコードを非売品としてアコードを購入してくれた人に配った。
 セダンのテーマ曲はEMOTION、ハッチバックはIt,s gonna be One of these nights。
ハッチバックに乗っていた私は後者が好きであった。アコードに乗りエンジンをかけると同時にそのテーマ曲が必ず車内を快適なものにしてくれたものである。このテーマ曲はEMOTION 方が知られて、One of these night はあまり話題にならないようだった。ディスコ調なので受けなかったのかな?というのはYouTubeで私がコメントを書いた後に続く人がいないからである。
 フランシス・レイの音楽を聴いているとかれの作風は彼がアコーデオン奏者出身であるがゆえの感じが出ている気がしている。和音とかリズム、曲の展開がアコーデオン的なのである。そして、その音楽は街と一体感がある。でも、彼の音楽はバッハのそれと同じ、私にとってどれもが素晴らしい曲なのである。
 彼は2018年86歳で亡くなられた。歴史の残る作曲家だろうと思う。
一方、クロード・ルルーシェは早朝のパリ市内をフェラーリで200Kmですっ飛ばしたドキュメンタリー風短編映画を制作した。パリ市内ですよ!10分くらいの映画だったかな?その後YouTubeでも見られるようになったようだが良からぬ輩が真似したら困るので?どうも放映禁止になったようである。彼は元気なようで、彼の言葉を読むことができるがその素晴らしい人生観を知ることができる。
                              2023年4月3日T.I

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