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Column

NHK大河ドラマの呪縛

 「どうする家康」が低迷している、というより迷走している。一言で言うとマーケティングミスだろう。まず、そんな商品を欲しがる顧客はいなかったということだ。NHKの意図としては新顧客層の若者を開拓しようとして、その顧客層の嗜好に合わせて細部を現代若者風にアレンジして作品を造り変えたのだろうが、まずそのやり方が下手だった。それ以前に家康を主体にしたそんなものに飛びつく若者など0.001以下なのではないか?
 結果として若者は見向きもしないし、本来の顧客にもそっぽを向かれてしまった。というのが正直なところである。

 しかし、昨年の大河ドラマは同じような意図ではあったが三谷幸喜氏は力があったのだろう、ともかく、視聴率をとらないとテレビ番組は始まらないという事を身に染みて分かっていたのだ。したがって、役者のセリフを今風?若者受けする言葉遣いにする程度で、基本路線はこれまでの大河ドラマのセオリーに則って作られていた。だから、本来の大河ドラマの固定客にも耐えられるようであったし、多分いくらかの若者の視聴率を稼げたのではなかったのか?と思われる。
 大河ドラマの定義とは何なのであろうか?私は新年1月の最初の日曜日に始まり、年末12月の初旬に完結し、最後に総集編を終える。という事とあくまでそのドラマは史実に則っていることの二つであり、実在の日本人の物語であることだと思っている。したがって、そんなにポピュラーな人物でなければならないということはない。
本来の意図(素晴らしき日本人賛歌)からするとそれほどポピュラーではない北条義時や渋沢栄一はそれなりに偉大なる日本人開拓という意味で日本国民にとって意義深い大河ドラマであったと思う。
 昨年は北条義時、今年は徳川家康。北条義時はこれまで取り上げられたことのない人だったので興味深いものがあったが徳川家康はいけない!どちらかというと華のない人生を歩んできたからだ。そんな人をNHK新大河ドラマコンセプトに則った人物に仕上げようとするのがそもそも間違いである。まあ、徳川家康などはありきたりのつまらない成功人生を送った人であるからだ。そんなのは最初から分かっていた。「どうする家康」の失敗はだれもがそう思っていたのではないか?
  
 歴史上の偉人にしたければ他の分野に腐るほどいるだろう。たとえば以前、安倍龍太郎の書いた「等伯」などは格好のテーマではないかと思う。まずジャンルが新しい。それでいながら人生が波乱万丈、山がいくらでもあるしその時代の著名な人物とのかかわりが大きく、新しい切り口を視聴者に提供できる。たとえば徳川家康と長谷川等伯の出会いと家康が等伯に会うことをどれだけ切望していたかなどは一山ある物語である。
 だいたい今更、将軍ではないでしょう?昭和の初めではないのだから?多くの人は将軍なんかには興味がなく、同じ時代の別ジャンルの人のことが知りたいのですよ。

そう考えると絵師、建築家(大工)、医師、工芸家、発明家・・・私の本棚に「重源」という本がある、平家によって燃やされてしまった東大寺を再興するためにその先頭に立ち、空前絶後の意志力と構想力と実行力で何から何まで、成し遂げたこの重源上人とは、信じられないスーパースターなのである。
 いわば行動する宗教家としては空前絶後の人物でNHKが特定の宗教関係者を扱うのはいかがなものか?という声に対しても、この偉大なる人物は私に言わせれば宗教色以上に描くべきところがあるのだ、それに源頼朝や法然や栄西などあの時代のあらゆるジャンルの人物が綺羅星の如く顕れるので、つまり、あらゆるジャンルの視聴者のニーズに応えるはずである。
今、時代はこのような発想を求めているのだろうし、NHKの大河ドラマとは日本を支えて、元気にした人を紹介する人を通して、日本とは、日本人とは、を考えさせるために存在している番組であり、けっして、日本を支えてきた英傑がタメ口を利くドラマではないはずだからだ。

最近、思うのだが本来、時代を、日本を、リードすべきNHKをはじめとするテレビ局の知恵のなさには呆れてしまう。たとえば民放のゴールデンタイムを見るとどこもタレントを集めたクイズ番組もどきのものが花盛りで2時間スペシャルなどと銘打って放映している。・・・・多分視聴率が稼げて、製作コストがかからないからだろうが・・?
そういえば昔の民放はNHKのようなドラマやドキュメンタリーを作っていたな?もう、そういう努力はしなくなったのだ。役割が明確になったからなのだろう。多チャンネルの時代だからな??
いずれにしてもNHKに期待する声は今後さらに高まるだろう。ともかく、視聴率云々?はそれなりに仕方がないにしても、あえて若者受けドラマに振り回されない。自信をもって番組作りに取り組んでもらいたいものである。

PS:独自性のある企画をお望みながら、「宗達はじまる」はいかがかな?私のイチ押し推薦オリジナル作品です。文化性、物語性、スケールの大きさ、現代と桃山時代が融合したリアリティなどこれまで見たことのないくらいユニークで魅力的だ!
                             2023年3月27日T

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