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Column

The Way of the ORUGANIST

 若いころ・・・という語り口で語り始めるのは年寄りの特権であろう。初めてバッハと出会った頃の話だから57,8年くらい前の話だが。最近思うのですよ、なんで鍵盤楽器をやっておかなかったのか?チェロじゃなくてピアノでもいいからそちらを選べば今頃、バッハの平均律の第1番プレリュードぐらいは弾けたろうに?
 
 私がバッハに魅かれたきっかけはそれこそ57,8年前にハープシコードの音を聴いてその楽器が奏でる音楽に惹かれ、バッハに行き着いたことがキッカケだが、そのキッカケがまた偶然で、ある映画の中で奏でられた音楽がハープシコード弾かれたバッハのラバースコンチェルトだった。その後、オリジナル曲がメヌエットという楽曲だということが分かった。私はその素晴らしい曲の原曲を探るために博識の友人に聞くとかれはバッハの「管弦楽組曲第2番」のメヌエットがオリジナルだよと教えてくれた!

 あの時代はその曲を探し当てるという事は至難の技で、今ならユーチューブをみれば数分で馬鹿でもチョンでもその曲が聴けた。ところがその時代にその曲を聞くにはレコード屋さんに行って、レコードを探して、まず、買うつもりで視聴させてもらうしか手はないのだ。
 当時、目黒に住んでいた私が利用できるレコード屋は目黒駅か渋谷か武蔵小山商店街に行かなければ買うことができなかった。私は武蔵小山商店街にあったレコード屋に出かけた。
運よくドーナツ版の管弦楽組曲第2番があった。勿論、視聴させてもらおうと思ったがメヌエットは組曲の中間くらいなので、そこまで聞くにはかなり時間がかかり、無理だなと思い買い求めた。クラシック音楽のドーナツ版のレコードは短めのポピュラーな曲のみを扱っていたようだ。一般的にミリオンセラーと言われた100万枚売れたというのもそれを構成したレコードとはドーナツ版が基準となっていた気がしている。考えてみればクラシックのドーナツ版は演歌のそれより長かったはずだ。

 早速、わが家のレコードプレーヤーにかけてみたら、訳のわからない音楽が流れてきた。
初めて聞いた音楽でさっぱりわからない音楽であった。クラシック音楽で聴いたことがあるのは「乙女の祈り」と「トルコ行進曲」くらいだったので仕方がない。バロック音楽という分野が流行り出したのはそれから10年以上たってからなのではないか?
 ただ、レコードジャケットの裏面の解説を読むとメヌエットは存在するが、そこに来てもラバースコンチェルトは流れてこなかった。
 “おかしいな?”確かにこの曲はメヌエット!なのだが?オレの聴き方が悪いんだな?と何度聞いても、どう聴いてもそれは違う曲であった。それ以上にこの音楽、何でこんなわからない曲がレコードとして存在するのだろうか?買う人がいるのかね?
 私はその理由が知りたくて何度も聞いた。そしてそれを作曲したバッハは1685年に生まれ1750年に亡くなっている。その時代に愛された音楽であることが分かってきた。ヨーロッパのそのくらいの時代に一種の憧れを持っていた私は数週間でバッハの管弦楽組曲第2番でその門戸の前に立ったのであろう。
 何週間かしてこんどはバッハのトッカータとフーガとトリオソナタ第2番の入ったドーナツ盤を購入した。これはオルガン曲であった。オルガン?当時、オルガンは音楽室にあるチープな楽器であった。それで弾いた曲などは良いわけははないよな!と思いながら買ったのだがこのカールリヒターが弾くこの曲は素晴らしかった。とくにトリオソナタが素晴らしかった。多感な時期にそれを聞くと自分の心は1700年のヨーロッパに飛んでいくのだった。
 未知の国の未知の時代の音楽、それがバッハであった。それから私はいわゆるバロック音楽のとりこになったのだが、世の中にバロック音楽ブームが来たのはそれから数年してからだった。
 ここで分かったことは例のメヌエットと題する曲は多分バッハは100曲以上つくっているのだ。つまり、管弦楽組曲もそうだがバッハの曲はほとんどが「乙女の祈り」「運命」などという曲名はついていない、「運命」ではなく「交響曲第5番」ということになるのだ。 

そしてそれらの曲は特定の形式の曲になっているのでバッハのメヌエットはハープシコード、管弦楽曲、無伴奏チェロ組曲などの曲の中にも存在するのだ。
 因みに例のメヌエットは「アンナマグダレーナのためのメヌエットト長調」というのが正しい答えではあったがそのミスは私の人生に多大な影響を与えたことは確かであった。
私はそれ以後バッハに取り付かれ、教会オルガニストになろうと考えるまでになったのだからだ。
 実際はバッハ、バロック音楽はフルートになり、チェロになったが今から思うとやはりうまい下手は別に鍵盤楽器が基本にあったし、原点にある気がしたものであった。しかし時々思うのだが、鍵盤楽器で「平均律の第一番」、「高き御空より我は来たれり」くらいは弾けるようになるのではないかと思うのだが??SUNSET77だしね?
  
 昔、ヨーロッパに頻繁に出かけていた頃、コモ湖を観たくてイタリアに行った。コモ湖はヨーロッパ人の別荘地で有名のところらしかった。私たち家族は街で見かけた登山電車のようなものでコモ湖を取り囲む山々の高所に出かけた。しかし、そこは小さな村のようで富裕者の別荘地村?のようだった。景色は素晴らしくコモ湖を見下ろし、アルプスがその後ろに広がった素晴らし村だった。人けのないその村を歩くと教会があった。 
 中に入ってオルガンを見上げた時、こういうところなのかな?と思った。
                             2023年2月13日T.I

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