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Column

緑 の 館

 こう呼ぶとかっこいいね。東京に30年近く住んだ。幹線道路に面したところに家があった頃は家の周りはアスファルトやコンクリートに囲まれていたので、たとえば植木鉢に入れる土を手に入れるには植木店で土を買ってこないと植物を育てることができなかった。
したがって、屋上で育てていた植木類は育たなくなってしまった。土を入れ替えるにも当時の都会では土を手に入れることが困難であったのだ。 
 こんな場所は人が住むところではないと思い。今の住まいに越して38年くらいになる。
その際の心したことは緑に囲まれた家にしようということであった。そうして、38年。家は確かに緑に囲まれた家になった。しかし、その緑がエイリアンのように家を侵食し始めると恐怖に代わる。わが家は見上げるような場所にあり、それは表から見ると、緑の館というより、緑の要塞になってしまった。
 要塞化に寄与した植物はオオイタビと麝香バラである。麝香バラは春には美しい白いバラの花が咲くので絵のように美しいがオオイタビは繁殖力が強く、多分、人が住んでいなかったら家全体を覆ってしまうだろう。その繁殖力は恐怖すら覚えるくらいである。植木屋さんが何十年か前に一鉢のモノを植えたくらいであったようだが、それはもう制御が効かないまでになったのである。そのお陰で植栽したつつじなどの花を奪い、毎年の5月ごろ咲く開花をも奪ってしまったのだ。
 私は十日ほど前からオオイタビの掃討作戦を開始した。しかし、庭中にはびこったそれはまさに寄生虫のように地中深く根を張り、とんでもないことになっていることに気づいた。その根はコンクリートの隙間に入りコンクリートを破壊して家の前の階段なども破壊する勢いなのである。

 方法は除草剤をうまく活用してコントロールすることなのだが、いわゆる、一度、地中奥深く潜り込んだ根を壊滅することが可能なのかわからない。しかし、これをしないととんだことになってしまう気がするのだ。たとえば、いわゆるその根は地中では鉄のパイプのように固く、強くなっているので、それを壊滅させるのは??なのである。
 オオイタビは蔦などに比べると常緑種で枯れないのはいいが、その根は深く潜り込み。幹は太く硬くなり、岩のように固くこびりつくので手作業ではそれを取り除くことは困難を極めるので電動ドリルを使っての作業が必須になる。それでもそれを引きはがすにはノミのような鋭利な金属が必要で私はドライバーと木槌を使い、切り離さないと剥がれず取り除くことは不可能なのである。
 オオイタビに覆われた場所を見かけたのは熊本だったので南方の植物なのかなと思ったがやはり、原産は台湾らしく、日本では千葉県以西なら繁殖するとのことであった。いずれにしても麝香バラのような風情のあるものではないので、最小限に切り詰めたい気がしないではない。ちなみに麝香バラはそれを植えた植木屋さんもその名前を知らなかったようで、私がこの薔薇の名前を知ったのは全くの偶然でウィルキー・コリンズの「月長石」という有名なミステリー小説を読んでいた時、その記述が我が家のバラに似ているので調べたことによって名前が分かったのであった。コリンズの文章が当を得た記述だったのだろう。
 麝香バラは五月の数週間を絵にかいたような景色を作ってくれる。微かな甘い香りがするという。しかし私の匂力?ではそれは分からないが。調べるとヨーロッパの地中海地方が原産だと言われているが、それをイギリス人がイギリスの気候風土に合わせて改良したのだろうか?でないとウィルキー・コリンズが見ることができなかったに違いない。
 麝香バラとはだれがいつ頃命名したのかわからないが麝香の香りとはなんとも素晴らしい命名ではないか。しかし、それゆえか我が家の道路側の柵は折れ曲がってしまっているので麝香バラを撤去すると柵は作り直さなくてはならないだろう。
 
 この麝香バラを植えた植木屋さんもその名前を「中国原産のバラ}とう呼んでいたがその名を覚える機会がなかったくらい珍しい奇種だったようだ。しかし、それをあのかなりのボリュームがある「月長石」から特定した私を褒めてあげたい気がしないではない。
この花は我が家のシンボルと言っていいのではないか?この薔薇を見るといつも遠いヨーロッパのアルファンブラを思い出すが何となくその地とつながるのである?私が行ったヨーロッパのイメージとそこが合致するからである。
 マドリードからレンタカーを借りてそこまで行った際の半世紀前の記憶が甦るがそこで麝香バラを見た記憶はないがそんな気がするのである。それにしても今年の夏はスペインのようであった。確かにそこでは緑の館は快適に過ごす必需プラントのような気がしないではない。                    2024年10月21日T,>I
 
 

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