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Column

回想’70 12,24

“The Complete Sherlock Holmes Short Stories” という本がソファの傍の本棚に無造作に置いてある。グラナダ放送局がつくったテレビドラマのシャーロック ホームズシリーズの「サセックスの吸血鬼」を見た後に、この物語の内容をすっかり忘れてしまったので読み返した。これは「シャーロック ホームズの事件簿」というシリーズの事件で、この本だけは早川書房だったので私の本棚では創元社のホームズシリーズから少し離れたところにあり、あまり目にすることはなかったので記憶が薄れていたからだ。
 シャーロック ホームズを通してイギリスを知るにはやはり原書がないと始まらない。ということで冒頭の本を買ったのだが、私は本を買ったらすぐに最後のページに買った日を書くのだが、この本は‘70 12 24,X’masと薄れた鉛筆で書いてあった。今から53年前のクリスマスに買った本である。年齢は?24歳。多分この本は日本橋の丸善で購入したとも思われる。当時、この手の洋書を買うには丸善かイエナでしか手に入らなかったものだ。
 そして、12月24日に丸善にこんな本を買いに行くことが出きるからには、まだ会社勤めはしていない?ホンダに入ったのは25歳になってからだ・・・この頃からシャーロック ホームズを読んでいたのかと思うと確かに病膏肓に入る境地か?
 というより、そこがなんとなく思い描くめざすべき人生のリアリティがあった方向だったからだ。だれともそんな夢を共有することができない人生の暗黒期のかすかな光がヨーロッパであり、そのまたかすかな光がシャーロック ホームズの世界だったのかもしれない。
若さとは何の疑いもなくそこに邁進する無知であり、勇気なのだがそれは邁進するだけの価値があった気がしないではなかった。手探りで15年近くかけて思った方向に向かうことができたのだ。
 イギリスをめざして、始めてイギリスに行ったのはそれから4年後の28歳の時である。当時、洋行と言われたもので、国際便は羽田発でアラスカ・アンカレッジ経由だった。

 と回想するが53年前のクリスマス?しかし、あの頃の有楽町界隈は風情があったもので3年間通ったデザインカレッジが新橋にあって、毎日新聞社の本社が有楽町にあって、近くにアメリカンファーマシーがあり、東京の中心地が意外と近かったのであり、そこにいくと何となくインターナショナルな体験ができたものであった。そういえば「有楽町で逢いましょう」という歌が流行った時代である。
 シャーロック・ホームズ譚は私のまだ見ぬヨーロッパへの憧れを満たすための本の様な気がしていた。克明にロンドンを中心としたヨーロッパを俯瞰させてくれたからである。
しかし、それまでの本命はイタリアであった。だから、28歳の時にヨーロッパに行った時のメインはイギリスとイタリアが本命で他のスペイン、スイス、フランスはオマケの様な気がしたものである。それらを一か月で回る自由旅行であり、当時としては画期的な企画の旅行形態で個人個人の特別な嗜好を満たすような旅行であった。旅行会社の仕事は足と宿と最初の一日の市内観光だけを約束してくれるだけであとは各自が自由に見て周るのである。
 私はベーカー街221Bを中心にロンドン市内を一人で見て周った。昼は半パイントのエールとフィッシュ&チップスで済ませて?夜はサンドイッチ?ちゃんとしたレストランに入るようになったのはそれから20年後、家族で行ってからだ。その頃はやっと慣れたこととお気に入りの店が出来たからである。

 それにしても最初のヨーロッパはインパクトがあった。スイスではチューリッヒから100Km離れたライヘンバッハの滝まで、電車で行った。これは日帰りの旅行としては信じられない冒険であった。たとえば登山電車の行きと帰りの車掌の挨拶がドイツ語とフランス語であった(それぞれの国籍の車掌?)勿論、日本人など見かけない・・・ちなみに、ここは「最後の事件」でホームズが宿敵モリアーティ教授と決闘した場所である。
 この体験がヨーロッパでの鉄道旅行が好きになった理由かもしれない。私たち家族がヨーロッパを鉄道で何度となく移動した。チューリッヒからザルツブルグ経由でウィーンに入った、また、ウィーンから雪原の中を鉄道でヴェネツィア入った。そして、オランダのハーグからユーロスターで海の下をロンドンまで入ったし、オリエント急行でロンドンからパリ・・・・TGVでアヴィニヨンからパリへ・・・いつも三人だった。たしかにホームズ氏には感謝ですね。ヨーロッパへの壁を随分と低くしてくれたからである。

しかし、死ぬ前に北海道に行ってみたいと思っているが最近その気がなくなってしまった。理由は決して涼しい場所ではなくなったこと、とやたらに熊が出没するらしいからだ。北海道に行ったとしたら街中などあまり興味がないし、自然の中に身を置くことが目的になるからである。理想は我がBMWで道内を回ることだった。そうすると確かに熊と遭遇する機会は多くなりそうだ。それに最近では街中にやたらに出現するというではないか?熊に食べられて人生を終わるなど?・・・おおっ!神よ
                        2023年10月16日

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