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Column

相 撲

 スポーツ観戦で確実に見るのは相撲くらいかもしれない。取り立てて御贔屓の力士がいなくてもテレビで見るのは家人が好きなので見るのである。いわば消極的観覧といえるような相撲も御贔屓の力士がいたら積極的観覧に変わる可能性がある。
 しかし、私の世代の人たちの多くの人はかつて相撲のヘビーユーザーだったのではないかと思う。いわゆる昭和20年代に生まれた人たちである。そのころも今と同じ、本場所のある時は毎日ラジオから相撲の実況中継が放送されたものであった。それでなくともラジオは常にスイッチが入っており、母がお気に入りの番組の時は必ずその局に針をあわせたものである。針をあわせる時は他の局を素通りするのでその局のその時間放送している、数秒が連続して聴こえてくる。
そう言えばテレビすら初めの頃はそうだった。チャンネルは12までしかないので1チャンネルの放送から8チャンネルの放送に切り替えようとすると最初の頃は4チャンネルの日本放送、6チャネルのTBS(とわ言わなかった)の画面を素通りして8チャンネルに行き着くということで今の様に8を押せばダイレクトに8が映し出されるわけではなかった。

 それで相撲の話をすると最初の御贔屓の相撲取りは羽黒山であった。何で羽黒山が好きになったのか分からないが?もしかすると最初のお気に入りの人だったかもしれない。4,5歳の頃の話である。羽黒山が好きになった理由は多分、母や父が応援していたのであろう。ただ、これを機にWikで羽黒山を調べると、何となく好意を持つようなエピソードをもった相撲取りだったようで現在、彼が現役だったとしても、好きになった気がしないではない。1953年引退したので私が7歳の時である。7歳では引退の意味が分かったかどうかわからない。この年の最後の場所で新鋭の栃錦と対戦したとwikに載っている。
 その次に応援した力士はその栃錦だった。栃錦を応援するまでは空白期間は長かった気がしないではないが栃錦は白黒テレビで応援した記憶がある。当時の栃錦の写真を見ると
これが相撲取りで横綱になった人かと思うような華奢な体であった。が、その気迫は横綱そのものであった。子どもながらに生き死にをかけた勝負とはこういうものかを思わせた。そしてライバルは同じような相撲取りの若乃花であった。この二人の千秋楽の相撲はまさに決闘の様な気がしたものであった。このあたりから世の中の相撲熱は高まり、栃若時代などといわれたが、この二人は宿命のライバルであった。
 しかし、このライバルは生涯お互いを尊敬しあった二人で、後に大相撲協会のナンバー1と2を担っていた際に現在の新国技館を建てようとした話が持ち上がった、場所は蔵前ではなく両国であった。しかし、予算が足りなくて困り果てて二人が揃って、鹿島建設の社長にこれしかお金はないが国技館の建設をお願いに行ったそうである。社長は当代の名横綱が二人そろって頭を下げられてはと、その予算で国技館建設を了解した話を聞いた記憶がある。子供心にいい話だと感心したものであった。

 栃若時代の次は柏鵬時代だった。柏戸と大鵬である。この二人は栃若に比べると10センチ以上背が高く、大きかったので相撲がダイナミックになって大相撲人気が絶頂期を迎えたのではないか。そこでは柏戸を応援した。しかし時代は「巨人、大鵬、卵焼き」であった。
 人気、強さ、体躯の見事さでは大鵬の人気は凄いものであった。元来、ウクライナ人の血が入っている大鵬はハンサムで色が白い美しい肌、その上、強い。三拍子そろっていた。それと人間的にその容姿と同じくらい優しかった。それに比べると柏戸は武骨で直線的な不器用な相撲取りであった。その結果、怪我をしてよく休場した。
 そんな柏戸を応援した理由は私と同じ郷里の山形県の出身者だったからである。山形県は総理大臣を出していない県だからというような自嘲的な県民にとってはじめて日本一を生んでくれた希望の星であった。いずれにしてもおとなしい目立たない県から生まれた横綱としては破天荒な相撲取りであった。
 この二人、本来並び立つような二人ではなかった気がしないではない。たとえば大鵬の優勝回数32回にくらべ柏戸のそれは5回である。ただ、その回数だけでは測れないものが柏戸にはあったようである。

 それ以後、わたしの御贔屓の相撲取りはいない。しかし、いろいろ考えると相撲取りの中で一番好きだったのは栃錦であったろう。あの気迫、体より気が勝るような名横綱であった。そう言えばその後かれの生涯をまとめた自伝「栃錦一代」がケースに入ったハードカバーの本として本棚にある。装幀はあの棟方志功が手がけている。多分この名人芸術家も栃錦のファンなのではないか。そんな気がする相撲取りである。
                            2023年8月7日T.I

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