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Column

転職と人生

  人はだれでも生を得て死に至るまでの人生を生き抜く。その中で多く人の人生の中心にあるのは何らかの仕事である。いい人生の半分はその仕事の成果や満足の度合いで決まると思う。
 という書き出しで今年の年頭から私の仕事について書こうとした。本来、12編の書き物になる予定であった。内容は世の中に知られた象徴的な仕事に関する内容で、それがどのようにして実現したのかを書いたものであった。
総集編と1~3篇まで書いた時にこれはどうみても守秘義務に抵触するのではないかと思い直し、同じ立場の人が書いた書籍等を調べると確かにその内容は、特定の企業などについては一般的な事ばかりで、いわゆるそのコンサルタントゆえに得られる情報は皆無であることがわかり、事が起きる前にすべて破棄した。それがこのような職業にかかわる人の暗黙のルールなのではないかと思ったからだ。

ただ、毎週更新される本考にとって突然、4篇がなくなるという事はかなりの打撃である。
と言うのは本考にとって一番大切なことは書く事より、書くに値する適切なテーマを探すことが重要だからである。
 何かテーマはないかと思い廻らしてみると今日体験した新しいことが二つあった。一つは今日が私のBMWの車検の日でショップに行った際に我が家を担当してくれている新人K君の転職に関する話をきいたこと、家に帰ってきて家人が録画してくれたNHKの「英雄たちの選択―森鴎外」を見ていたら鴎外も小倉への転勤命令が出たことを機に転職を考えたという話を聞いたからである。
 双方に共通している話が転職と人生という事なのであるが、本考の没にした4遍も多分に転職によって得られた話なので、急遽の策として転職について考えてみるかと思ったのである。
 私は転職組であったが、私の友人や知人で会社は変わっても転職、いわゆる職種を変えた人と言う人はあまり見かけない。とその前に転職の定義なのだが会社を変わっても同じ職種の場合は転職と言うのだろうか疑問であった。
広辞苑では、「1つの職から他の職に転ずること。職業を変えること。」となっているので
こちらの意味として話を進める。
上記のK君は明らかに転職であった。以前は技術者であったが今回、営業の仕事をしたくてBMWに転職した。
 そして「英雄たちの選択」における森鴎外は小倉への転勤を期に陸軍の軍医を辞めて小説家に転職しようと考えた。
 そして私は明らかに転職をした。デザイナーを辞めて、プランナーに転職をしたからである。
しかし、森鴎外は転職を撤回して小倉に行くことになった。この三人の転職始末記は結構面白いことが分かる。
 K君は28歳なので最初の会社には5年近く在籍していたことになる。それで現在のところ転職してまだ一年にも満たないので、まだまだ未知数である。決め手は転職に何を期待していたのか?で、それを叶えられそうかで決まるだろう。
 私の場合は森鴎外と同じケースであった。つまり、鈴鹿に転勤が決まり初めて東京(埼玉)から去ることになった。私の場合は事業所が移動することになったので東京に戻るという事は違う職種を選ぶことになるので鈴鹿で生涯を終わることになったのだろう。その予想は当たっており、事業所と共に鈴鹿に行った人は鈴鹿に家を買い,皆、そこを竟の住まいにしたのだ。私はいわゆる関東にお墓もあるし、鈴鹿の土になることの難しさを感じていた、そして家内も東京の人なので躊躇したが、その判断は正しかった気がしている。

 森鴎外の場合は小倉転勤を左遷と考えていたことも転勤を機に辞めるきっかけになったようだ。ただ、その時はすでに作家活動をしており、東京で作家として暮らしていくことも可能だったようであったが?それでも、あの当時、作家稼業と言うのも一抹の不安があったようである。
結局、小倉に行くことになったが論理的に考えて、左遷という屈辱は思い込みにすぎないのではないか?同期の某の嫌がらせ転勤辞令としたら、それは左遷とは言わない。としたら、辞める理由にならないし、なんら屈辱ではないと考えたのだろう。
 結局、鴎外は小倉に3年ばかりいたが、その3年は文学的な実り多い3年になったようである。以前、松本清張の書いた「或る『小倉日記』伝」を読んだ際にそんな気がしたものであった。
ここでおまけがついた。松本清張氏はその作品で小説家として転職する決心をして東京に出ることになったのであった。それまで彼は朝日新聞の小倉支局で図案の仕事をしていたのだ。したがって完全な転職である。

転職は人生の意義を再確認するチャンスである。私は転職して最初の会社は半年しかいなかった。入社してみて、自分はこんな会社で終わる人間ではないと思い直し、すぐに辞めたがそれは正解であった。次の会社はイメージに近い会社であったし、仕事であった。次はもっと良かった。転職をして自己の能力を高め、仕事を通して自信を深めて、さらにその高みに行くべきである。そう考えられるのが転職である。
                            2023年1月16日T.I

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