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Column

思い出に生きる

新しい年を迎えられた皆さまと共に祝いたい。

少々、押し付けがましい新年の挨拶で恐縮だが、お許し願いたい。今年77歳を迎える爺に免じて。と、この切りのいい数字を何度か口ずさむ内に「サンセット77」と言うカッコいい昔のテレビ番組を思い出した。
この番組ロスアンゼルスのサンセット通りの77番地にある探偵事務所のテレビシリーズの番組であった。タイトルに必ずWBマークが出るのでこれはワーナーブラザースと言う映画会社が作ったものだという事は子供心に刷り込まれた。この当時?1958年から1964年と言うから私が中学生だった頃のテレビ番組だったので、多分、多くの中学生がその番組を見ていたことだろう。
探偵業というシリーズ物はアメリカでもヒットしたらしく、その後ワーナーブラザースでは「サーフサイド6」「ハワイアン・アイ」という同系統の探偵シリーズ物が作られて放映された。洋画好きの私は勉強そっちのけで見たものである。放映された翌日はいつも見ている友達と学校の休み時間に話し合ったものだ。確かに勉強より面白かったのは確かでお陰で成績はいつもパッとしなかった。これが原因とは思えないが。
ただそれらのテレビ番組はいわゆる外国と言う土地に対する憧れを私の心に植え付けたと言っていい。それらのテレビシリーズの次はイタリアやフランスの映画に移り、何回か前の本考の「ダゲール街の人々」にまで続いている。

私は高校を卒業して、大学に行くか?家業を継ぐか?と漠然と考えた時、卒業式で早めに帰ることができたので、どこだか忘れてしまったがホテルのロビーに入って海外のエアライン(TWA?)のパンフレットをもらって帰ったのを覚えている。それに乗ればアメリカやヨーロッパに行けたからだ。そんな夢を抱いてその夢を実現するのに10年かかった、デザイナーとしてホンダに入ってから、ヨーロッパとアメリカに行くことができた。 
その後、外資系のコンサルタント会社に入り、10年間にわたり年に2回、仕事の一環で毎年2週間の旅行ができる特典の中で家族と共に世界を見て周った。信じられないような話だがその原点は「サンセット77」にある気がしないではない。
サンセット77はそのまま意味を解すると「日没の77歳」そうか?もう人生も日が暮れるのか、とダジャレ的な比喩で先週出した年賀状に書いたものである。

家人がヨーロッパなどの旅行番組をビデオで採ってくれているので二人でよく見て、「そうそう、こうだったね」と語り合うのを楽しみにしている。そうして、もう一回行けるかな?というはかない夢を抱きながら見終わっている。思い出と希望に生きているのだ。

本考は12月21日の朝日新聞朝刊に川本三郎氏が寄稿した「思い出して生きること」を読んだことに触発されたものである。「妻に先立たれ14年、悲しみや寂しさは消えずに共にある」という副題を読んで家人に見せたら、“それは両方に言えることね“と言ったがすべての夫婦が体験する悲しみなのだろう。
その文章の中で「悲しみや寂しさは無理に振り払う事はないのだ」という確信のような言葉に出会う、そうかもしれない。その思い出は総天然色のドラマであり、素晴らしい映画のような作品なのだ。そう考えると傑作揃いの我が人生だったかと思い直すと何となくワクワクするようだ。今年もそう言う体験をできると思うと元気が出そうである。
                             2023年1月2日 T.I

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