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Column

みずうみ

 「みずうみ」という言葉で目が覚める。そういう歳になったのだ。と同時にノスタルジアという言葉が反射的に出てきたので、本考を書くために机に向かう。若いころから、本当に若いころから未来より過去の方が好きだった。若いのだから過去より未来の方が好きなはずだと思えるが、別に過去にいい思い出があるはずはなかったのだが?
 その理由を解く鍵はシュトルムの小説「みずうみ」にあったようだ。ドイツの文学者でフーズムという街で生まれた法律家であり作家なのだが、ゲーテやヘルマン・ヘッセなどに比べるとあまり知られていない。
 「みずうみ」という言葉だけでその本を買ったのだがその本は想像した通りの本であった。どれだけ魅了されたかと言うとその本からイメージされた夢を見たくらいで。
その後、確信をもって言えることは夢は総天然色で見ることができるということでモノクロではないという確信であった。その鮮烈さは60年経った今でも映像として思い出すのだからどれだけ鮮烈であったかわかるというものだ。その夢の多くをシュトルムの「みずうみ」から引き出されたものである気がしている。
~荷馬車に乗った花飾りの帽子をかぶった若い女性が山の中の湖に向かう途中に私と出会う~。そこに身を投じるためにいくのだ。と直感的にわかった~
 
その夢はシュトルムの小説から連想されたような気がしないではないが?今から考えるとなんでフーズムに行ってみなかったのか?と時々思う。フーズムは鉛のような暗い日が多いとシュトルムが書いているように、北海に面しているデンマーク国境に近い街である。
便利になった時代で一瞬にして私はグーグルマップでその街に舞い降りることができる。
 しかし、街を歩くことはできない。かなりの僻地?の小都市なのだろう。以前、確かにストリートヴューができたはずだが?この街が世界と繋がっている確証はマクドナルドとKFCがあるというくらいだ。しかし、街の雑貨店に舞い降りることができた。店には魅力的な品々であふれている。寒い街のようだ、ラムズウールの太い毛糸で編んだセーターやカーディガンが店内に並んでいる、あと、革製のバック等々。
 以前、見た時はシュトルムの生家を見たのだが、街中にある商店のようであった。フーズムの近郊には小さな湖がたくさんあると聞いたのだが?確かに半島の反対側には大小の湖がたくさんある。

 一番近い大都市はハンブルグ、そしてリューベックここはバッハが若い頃、教会オルガニストとして就任したところだ。フーズムはポーランドやカリー二ングラードが近く今一番のトレンディーなヨーロッパの街であることが分かってくる?
 私が仕事でヨーロッパに頻繁に出かけた頃は50歳代なので、その30年前に読んだ街、フーズムに行くことも立ち寄ることもできなかった。地理的にあまりにもかけ離れた街であったし、旅程に組み込むことがむずかしかったのだ。
 
 ノスタルジアという言葉はギリシャ語のnostosからきておりreturn to home+painからできている。望郷とでも言えるだろう。
 シュトルムは美しい詩を書いた人でもあった。したがって、この小説のような美しい詩を書いた。個人的にもその詩にまつわる思い出がいくつかあった。
ところで、この「みずうみ」という書名は日本語の直訳ではなく原題は「インメン湖」という架空の湖だった気がしている。翻訳者の高橋義孝氏の配慮かと思う。だいたい。ドイツ文学の翻訳者はこの手の本を若いころ読んで、その後ゲーテに行くかヘーゲルにいくかで結局、ゲーテに行った人ではないかと思う。
 私の書棚にはシュトルムの本はほとんど残ってはいない、最初に古本屋に持って行った中に入っていたのだ。その金額の少なさで、こんなんじゃ売るのではなかったと思い直した。本を売る馬鹿らしさを知ったのだ。その結果40年くらいたって、また本があふれ出した。
                             2022年11月21日 T.I                

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