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Column

何がパーパスだ!

 どのくらい前からだろうか、少なくともここ一年くらいかな、私が耳にしたのは?
それにしても間の抜けた英語だな?そういえば元旦の新聞の企業広告でもどこかの会社の社長がわが社はパーパスを見すえた経営をするなどと言っていたような気がしていた。
 Purpose:目的を意味していることに気づいたのは少ししてからである。ただ何となくこれはパーポースのことを言っているのではないか?私は昔からそのような発音で理解していたのでなんかパーパスと聴くと「くるくるパー」のような気がしていた。

 私はビッグプロジェクトに取り掛かる時は必ずHBR(Harvard business review)の定期購読をすることにしている。一応、世界のビジネストレンドの現在を端的に知ることができるからだ。
 しかし、このたびビッグプロジェクトが終了し、デスクの脇に山積みされたHBRを本棚に納めたら、背に書いてあるその巻のテーマが読めるようになったのだろう。「パーパス」がテーマのHBRが目に入ったので取り出して見てみた、いつの号が見たかったのだ。
2019年3月号だ!そういえば私がこの間の抜けた言葉を聞いたのもこの後くらいだ!HBRは日本の企業の羅針盤のような機能を期待されているのだろう、そういうことだ。

 その意味を調べると私が30年近く前に言っていたことであった。CIという分野からこの世界に入った人間にとってpurposeは企業の存立意義に係ることなのである。私はそれを解いた企業理念体系を書いたコンセプトブックをこれまで何十社にも提供してきた。
 やっと世の中の企業社会がそこに目を向けるようになったことに対して、世の中ってそう言うモノなのだという思いを新たにしている。しかしよく考えると輪廻転生なのだ。生々流転という言葉もあるな。時代は繰り返すのであろう。

 “目的と手段”戦略の本質はその二つである。戦略を理解したくてもまったく参考になる本がなく、戦争に関する本が一番それを教えてくれると思い、私は孫子から始まりクラウセビッツ、リデル・ハートまで読んで理解を深めたのである。戦争とはそれを明確にしなくては一国が滅亡してしまうくらいシビアなものなのである。たとえば最も頭に残った言葉はクラウセビッツが言った「戦争とは外交の一つの方法である」といったことだ。戦争とは・・・言っても分からない国が相手なら力に訴えるしかないということなのである。
 北朝鮮に対して外交ルートで拉致被害者の返還を求める方法が現在行っている方法、そして武力に訴えて拉致被害者を取り戻す典型的な手段が戦争なのだ。その他に謀略という方法もあるかもしれない。北朝鮮当局が気づかない方法で情報を集め、かれらの気づかない隙を狙って奪還する。まあ。ゴルゴ13か007のような方法と言えるかもしれない。
 毎年12月8日が近づくと日本がなぜ戦争をしたのかというような特別企画番組を見ることができるがその中身はその選択が間違っていたことのコンセンサスを醸成するための番組である。目的と手段の再確認を国も私たちもしなければならないという事なのである。

 現在のパーパスブームは国という言葉を企業に置き換えて考えようということなのであろう。なんの今更といおうが確かに世の中に適応するための手段がえらく変わってきたためにその手段にばかり企業が惑わされてしまっているのでそこに対しての気づきを与えるとも言えるのだろう。
 正月の新聞の下の欄は書籍の広告が出る。その中にパナソニックが買収をしたある会社を成功に導けなければもうだめであろう?というような記述が書いてあった。パナソニック、松下電器産業ほど先が見えない巨大企業は日本にはないのではないか?そして、この企業ほどパーパスを見失った巨大企業を私は知らない。というのはこの会社は最もパーパスがハッキリしていた会社であったからである。
 「水道哲学」という明確なパーパスがあったはずだ。水道の水のように低価格で良質なものを大量供給することにより物価を低廉にし消費者の手に容易に行き渡らせるようにする。という考え方である・・・・偉大な創業者松下幸之助の哲学でもある。
 ところがそれを継いだその子供たちがそれを忘れ、目先の安易な道を選択して、創業者が夢見た事業も、会社もだめにしてしまったのである。どんな会社でも志が高ければ会社は成長するものである。なんでそうなってしまったのだろうか・・・パーパスを見失ってしまったからだろう。
その反対にある企業のドキュメンタリーを一昨日に見た。昨年でF1を撤退したレッドブルホンダの記録である。この会社ほど創業者の哲学が息づいている企業も珍しい。そのドキュメンタリーの最後の頃、創業者の本田宗一郎が映し出された。そして、その哲学が従業員の一人ひとりに息づいていることを紹介した。
二つの企業は似たような起点をもって、似たような道を歩んで世界に冠する企業になった。しかし結果から見るとかなり違って現在がある。その違いを簡単には語れないが、違うところがホンダは夢を思い描くことを奨励した会社のような気がする。儲けはあとからついてくるという風なところがあった。そして水道哲学と共存させた気がしている。最初のヒットのスーパーカブなどは水道哲学を地で言った商品であった。ただ、そのスーパーカブの技術でレースに優勝するという夢を追ったことがPanasonicとの違いだった。
パナソニックの再生の道は間違いなく自身の普遍的なパーパスを再確認することになるのではないか。
                                 泉 利治
2022年1月24日

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