ブランドワークス

Column

CANON対EPSON

 プリントを低コストに押さえたい人のためにCANON/PIXUSが新発売されたというnet広告を見かけた。私は苦々しい気持ちで鼻で笑った。
 それまで私はその会社の製品を2度にわたり継続して使ったのだが、そのランニングコストの悪さ(理由はインクの値段の高さ)と、地球環境を無視して企業利益だけを追求するその姿勢に憤慨してEPSONに切りかえた。EPSONの使い勝手の良さとサービスの良さを体験すると二度とCANONのプリンターなどを買うものかと思った。それまでCANONを使い続けた理由は家庭用のパーソナルな安価なプリンターがなかったからだ。しかし、それを使い続け、大量に印刷するにはインク代がかさんだ。その防御策として純正カートリッジを使わずにリサイクル品を使わざるをえなかったのだ。しかしそれすら結構の値段だった。
 理由はCANONがそれを防止するために使い捨てのインクカートリッジに高価な電子的な細工をして二度とこのケースを使えないようにしたからだ。素人目に見るとそのカートリッジは使い捨てをするべきモノではないくらい高価な使い捨て容器になっていた。過剰品質の極みだった。その割にはインクの量が少なく、そこそこの量を印刷する前にはその高価なカートリッジをいくつも用意していないといけなかった。
 しかし、EPSONのプリンターはそれらの問題を全て解決したものであった。唯一の欠点はプリンターのデザインがCANONに比べると悪かったくらいで、EPSONのプリンターは本当にパフォーマンスが良かった。その上、何か問題があると電話で親切に教えてくれた。製品とサービスのベストマッチングが文句のないものであった。多分、私と同じような思いをしたユーザーはEPSONに乗り換えたであろう。キヤノンの低コストプリンターとはEPSONの物まね商品のようである。それで、かつてのCANONユーザーを取りもどすための機種であることは目に見えている。しかし、私は間違ってもCANONに戻ることはないであろう。この企業のユーザー利益より自社利益しか考えていない姿勢が分かったからだ。
CANONと言う会社には何とはない因縁があった。スケールの大きい話としてアメリカ市場でオフィス機器のナンバーワンであったCANONをその座から引きずり落とした戦略をつくったのは今から15年も前のことである。それ以来CANONはオフィス機器の世界シェアのナンバーワンになれないでいる。そして盟友のXEROXは消えてしまった。

私のCANON感はズルイ会社というイメージしかない。しかし、プロダクトのデザインは見事であることは認める?CANONブランドのついた機器はカメラからオフィス機器のすべてに隙がなかった。そして、ビジネスにも隙がなかった。使い捨てインクのカートリッジにも、その容器を使い終わった後に再利用できないように電子処理してあり、常に高価な純正のカートリッジしか使えないようにしていたのだ。たしかにメーカーが責任をもって保証するゆえの責任コストでもあったのだろうが?

まったくの偶然だが、私がこの嫌な会社はどんな経営哲学を持っているのか知りたいと思ったら、それを聞いていたかのように昨日(11月26日)の日本経済新聞の朝刊に見開き2ページに「医療」と描く新生・キヤノン」という企業広告を打った。
この会社が医療に力を入れようとしていたことは数年前に知っていた。と言うのは私が以前担当した東芝のMRI事業を丸ごと買ったからであり、今後、医療分野は数少ない確実に発展する事業分野であることが分かっていたからだ。キヤノンはこの事業を1兆円事業に育てようとしているのだ。この会社はどちらかと言うと既存の事業や商品から、利益を創り出す才に長けた会社である。その点トヨタと似ているようではあるがトヨタ程の独創性はなくどちらかと言うと姑息なアイデアで小さな利を積み上げるような会社である。その根底には使用者利益より先に自社の利益を確保することが先でそのおこぼれを消費者が拾えばいいのだという姿勢しかないのではないかと思う。

CANONと言うネーミングはKANNON―観音からきていると聞いた。創業者が観音菩薩の慈悲に与りたいとの理由からその名前にしたそうである。しかし当のキヤノンは観音菩薩のような慈悲心はどうみても持っているとは思えない。そんな隙は見せない会社なのだ。その証拠に1949年の上場以来赤字は一度もないそうである。この会社のカルチャーから見ると医療機器への進出は当然の戦略であることが分かる。BtoB事業はBtoC事業に比べ確実なのだ。

かつて日本の先進技術企業はPANASONICもそうだがBtoC事業より手堅く、ライバルが少ないBtoB分野に軸足を置きつつあるようである。企業文化からすると確かにキヤノンはBtoBの方が向いている。ただ、かつてBtoCビジネスの覇者である日本の著名企業のいくつかがそうなるのは正直、哀しい気がしないでない。何となく日本の企業が負け犬の様になってしまっているからだ。
今にあの自動車産業もそうなるかしれない。アメリカの自動車会社がそうではないか?と言うかもしれないが、どっこいそうではない。テスラはアメリカの企業だし、GMもEV時代に向けてその矛を納めていない。アメリカの企業にはそんなガッツを感じるのである。
パナソニックやキヤノンにそんなガッツがあるだろうか?少々、心細い。BtoB事業で赤字を出さないことが企業にとって善なのだという風になってしまっている。日本にも面白いかつてのホンダやソニーのような会社が出てほしいものである。
                                 泉 利治
2021年12月6日

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