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At the Helm

慣用句で“舵を執る”というような意味合いだそうであるが、購入した書物の日付を見ると2015年1月2日とあるので、三が日の時間がある時に近所のBOOK OFFで購入した本であろう。この本の副題は「自分のラボを持つ日のために」ということで、自分が研究室を持った著者が将来、自分と同じ立場になる後輩のために書いた本である。
 何でこんな本を買ったのか?理由は研究室や研究をする組織について知りたかったのである。また、最近またとその本を開く機会が訪れたのは、いわゆる研究室や研究所というところについて何か手がかりが欲しくなったからである。
 この本はポストドクターが〝修業時代“を終えて独り立ちをして自分の研究室を持つ際に直面する問題が扱われ、それに対して成功するための心がまえや、自分が何をするべきか、その問題をどのようにとらえるべきか?などについて信じられないくらい分かりやすく書いている。今回のテーマはその信じられなくらいのわかりやすさについてである。

 大学の仕事をしていた時、様々な大学について調べたが、それは国内の大学だけではなく海外の大学まで及んだ。特にアメリカの大学をベンチマークしたので、それに関してはかなり気を付けて調べた。一番手っ取り早い方法は各大学のHPをテーマごとで比較することである。
 日本の大学とアメリカの大学の最大に違いはHPの軸足が大学に置いているのが日本の大学で、学生に置いているのがアメリカの大学である。象徴的な例として新年のHPを比較するとよくわかるが、日本の大学は受験が近いこともあるのだろうが受験に関することで、よく考えるとそれは現在、在学している学生には全く関係のない情報で、体のいいプロモーション、大学の営業情報である。
 ところがアメリカの大学(ハーバート大学の例)は今年、一年の1月から12月までの
学生生活の勉強、健康、読むべき本、ライフスタイルなど全てに対してのアドバイスで網羅されているのである。いわばハーバートライフ歳時記ともいうものが最初にあり、それに対して大学がどのような支援やサービスを提供できるのか、何かトラブルや分からないことがあったらどうすれば良いのか、大学のどこのだれに訊いたら良いのか?メンタル面が不調に陥ったら、誰に相談すべきか?などが事細かく書いてあるのだ。もちろん、そこには各学部の履修登録から始まり、テストの勘所などのコメントも・・・
 要するに大学のホームページは誰のためにあるのかということが明らかに日本の大学とは違うことが分かる。多分、私が見たのはハーバートカレッジのものだったようなので寄宿生向けだったので、とくにきめ細かいものであったのかもしれないが、ともかく自校の学生に対する思いやりを感じるものであった。このあたりのきめの細かさは日本の大学にはないものであった。
 今回のテーマはここなのだが、アメリカ人は自分の経験から多くの人が学び、その経験から、次の多くの人が学びそれらの総合知が社会を発展させるという確信で出来ている国のようなのである。
 
At the Helmの中に時間の使い方という項目があるが、次のような内容で展開される。
★「時間の使い方」→時間をもっとうまく使う→管理の形を選ぶ―紙、それともコンピューター?→個人情報管理ツール(PIM)→電子手帳を使って調整→?
★「1日のスタートはその日の仕事リストから」→ちょっとした時間を有効に使いましょう→?
・10分空いている時→・電話を一本かける。・論文を一つ読む。・机の上を整理する。・ウェブのお気に入りを一つ読む。(内容よりもこのようなことに注意を払うことを教えている)
・30分空いている時→・何か一つの問題についてウェブを検索する。・引き出しを一つ片づける。・コーヒーを飲みながら友だちと話をする。
★「連絡の合理化」→手紙

など、いわゆる研究室で働く人の一つの行動について、観察して、文章化するのであるが、いわゆる個人の経験を伝え、活かそうとするのが、アメリカ人に共通した文化のような気がしないではない。
要するに人が卓越するためにどのようなライフスタイルを持つべきか?ということを一般化し・・・公開するのがアメリカという国のメンタリティなのである。先のハーバート大学の元旦の歳時記もそれに類することなのであろう。
日本ならさしずめ、そのようなことは教えられるものではなく、盗むものだということになるのだろうが、この差は大きい。こんなことを自慢げに口にするメンタリティが残念ながら日本の文化なのである。このあたりに対しては日本の大学が率先して一つの新しい文化をつくってほしいものであるが?
At the Helmは研究室の話なのだが、よく考えるとここはノーベル賞を獲得する最前線であり、価値を創造する場である。価値の創造は豊かさをその国にもたらし、社会にもたらすことになる。そして国民が豊かになる。
                                  泉 利治
2021年8月9日

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