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Column

自動車雑感

 自動車に対してそんなにマニアックなまでにこだわってはいないつもりだが、人生に様々な意味で大きな影響をもっていたもののひとつである。
 まず、何かの偶然から自動車のデザインをする仕事についた。といっても量産車ではない。そのキッカケはデザインスクールの課題の一つにコミューターカーになったことでそのテーマがことのほか面白く、偶然に銀座の洋書屋でイタリアの自動車デザインの専門雑誌を手に入れ夏休み中その本を見て(イタリア語なので見るだけになった)、スケッチや作図の仕方等を学習したことがそれなりにその後の授業などに活かされて、評価されたことが大きい、その後、自由課題で自動車やスクーターを選ぶことになった。
 デザイナーの就職試験は学生時代に課題として試みた作品が大きな判断材料となるので、
そんな評価に気をよくして、車関係の作品が4つか5つあったので自動車会社としたら、椅子や、電話機などの製品のデザイン課題より判断がしやすかったのだろう。自動車関連企業に就職できた。とは言っても私はその時点で自動車免許証を持っていなかった。
 ただ、その会社の仕事は面白かった。その上、仕事の一環として免許証を取りに行くこともできたので就業時間中に教習所に通い、ホンダグループの教習所で関連企業割引を受けて楽に取れたのである。28歳であるので決して早い方ではない。
したがって、最初に買った新車はホンダアコードである。これも従業員割引で安く購入、黒いハッチバックのアコードはその自動車のテーマソングであるフランシス・レイの作曲したIt’s gonna be one of these night とシンクロするような素晴らしい車であった。この車、デザインが素晴らしかった。カジュアル感があり、スタイリッシュでHONDA という会社のデザイン力は本当に素晴らしかった。

最近やっと、HONDAのデザイン力が戻って来た感がある。新しいFitはホンダらしい洗練されたデザインである。本来売れていいはずのこの車が売れないらしい。反対に私が最悪のデザインであると折り紙を付けたトヨタのヤリス?デザインも醜悪だが、ネーミングも醜悪だ。しかし、これが売れている。 この車、Car of the Year ヨーロッパをもらったらしい。
ヤリスの後部を横から見てほしい、あのデザイン処理の醜悪さはどうしたものか?よく言えば個性的である?売れ行きとデザインはパラレルではないと思うが?デザインは売れ行と逆比例するという時代になったのか?いずれにしても自身の価値観を否定された感じである。このヤリスという自動車は何かと中途半端な気がしていた。私はこの車ほど寄せ集めのポリシーでつくり上げた自動車は見たことがない。トヨタが考えるグローバル車の典型がこれだとしたら、後で後悔することになるだろう。
まあ。高齢のデザイナー出身のマーケッターの意見なのだが、どうも、最近このあたりがトヨタに関しては外れる。今、ふと思ったのだが世界の自動車メーカーでデザインで、いただけないのはトヨタとアルファロメオかな?とくにトヨタのデザイン軽視の姿勢には目を当てられない。会社が目をあてられない日産だって作っている車は真摯なものばかりである。トヨタのライバルであるVWの自動車を見てほしい。製品ラインの全てが洗練されたVWデザインアイデンティティをもっており、その姿勢は企業哲学にまでなっている。
とくにVWグループのアウディがイイ。多分、アウディはデザインが自身の生命線と考えているのではないか?私はアウディのフロントグリルがバンパーより下に来るデザインを選択した際、それが目になじむまでどのくらいの期間がかかるものか興味深く見ていた。
今回発売したアウディのA4やA3を見る限り、見事にグッドスタイリングと感じるようになった。同じ選択をしたレクサスはそれなりに処理したが、アウディは先に出したがそれを我が物にできなかった。しかし、かれらはやっと自身のデザインアイデンティティを確立したのだ。あの執念と情熱は見事である。アウディにはいい車を創ろう云うパッションを感じるのだ。
それに比べると酷いのがBMWである。あの伝説のキドニーグリルは何なのだ!整形に失敗したとしか言えない。多分、日本でも売り上げは落ちているのではないか?現に何週間か前にアメリカ市場で購入1年以内に買い替えられている自動車ブランドベスト10の半分くらいがBMWの自動車だった気がしている。
最近、珍しいケースである。以前はそのようなモデルチェンジの失敗がよくあったものだが現在はほとんど見なくなった。まさか我がBMWだったとは、理由はなにか?
多分、売上のプレッシャーなのではないか?特にメルセデスが好調だからだろう。かれらはあの三つ星マークを付ければフロントグリルはどうにでもできる自由度がある。だがそれ以上にメルセデスはデザイン処理に長けている。BMWは気の弱いデザイントップが営業チームに負けたのだろう。
メルセデスは凄い、性能、デザイン、マーケティング。非の打ちどころのない自動車メーカーである。自動車を発明したという誇りがあるのだろうか?あの企業パワーの源泉はどこにあるのか?癪に障るが。だから、今年はHONDAがF1でメルセデスを引きずり落とせるかもしれないので頑張ってほしいものである・・・いけるかな?と個人的には思っている。だって、HONDAがエンジン車をつくらなくなるのだからだ。株主総会でなき本田宗一郎はどう思っていると思うか?と株主から質問があったそうだが?
新社長は思い切った手を打ったようだが私は疑問である。新社長の経歴を見るとあまり技術にこだわりのある人ではなさそうである?思い切った決断力はみごとだが、将来が不安である、短絡的だ。HONDAの社長人事は最近、迷いがある気がしている。
HONDAのコアコンピタンスはエンジン技術である。それを平気で捨て去る?捨て去るのは簡単だ。要はそれに代わるコアコンピタンスをどう考えているのかということである。それを説明できずに英断が聞いてあきれる。そんな人が社長になったケースを知っているが、その会社は消滅してしまった?海外の会社に買われてしまったのである。HONDAはそれほどバカではないだろうが・・・・?
                                  泉 利治
2021年6月28日

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