ブランドワークス

Column

Concert Hall Society

クリスマスになるといつものことながら、それにふさわしい音楽が聴きたくなる。山下達郎からカーペンターズ・・・ことしは昔、聴いた曲が妙に聞きたくなり、ようやく探し当てて針を落とした。「Baroque Music for Christmas」購入した日が書いてあった1969年1月3日、正月に買ったようだ、微かな記憶では渋谷の西口の方にあったテナントビル(解体された東急プラザ?)の中のレコード店の様な気がしている。経堂に住む友人の家にお年賀に行った際に買い求めたような気がしている。
 51年前なので私が23歳の時でフルートでバッハを吹いていた頃だ、そしてリコーダーで同じようなルネッサンス音楽を吹いていた頃である。いずれにしてもヨーロッパのこの時代に魅かれていた。23歳なので憧れのヨーロッパに行くまで5年の歳月があった。
 このレコードの発売元がタイトルのConcert Hall Societyなのである。しかし、このレーベルはこの頃、そのビジネスに行き詰っており、本来、クラシックの通信販売でしか売らないレコードが店頭でたたき売りをされたのであった。
 日本で初めて、Concert Hall Societyが華々しく新聞紙上で見かけた時、いわゆるクラシック音楽に憧れを持っていた私は申し込んだが、どうも定期的に送られてくるクラシック音楽のレコードを聴く自信がなくなり、途中でキャンセルをした記憶があるが、懐かしく思い調べてみるとこの会社はアメリカで1946年に立ち上げて何年かで世界一のクラシック音楽のレーベルになったらしい。戦争が終わり様々な音楽が一巡して人々の耳がクラシック音楽に向かったのだろう。ただ私の周りにはクラシック音楽を愛好している人は皆無だったが、私はどういうわけか違っていた。しかし、クラシック音楽といっても800年位の時間差があるのですべてが好きというわけではない。
 私は好きな時代を生で体験できる手段としてクラシック音楽に接近した。というのはそれらを聞いた瞬間はその時代と同じ瞬間なのである。そんな劇的な実感をしたのは以前、12月30日のヴェネツィアのスキャボーニ河岸に面したヴィヴァルディが音楽監督をしていたサンタ・マリア・デッラ・ピエタ教会での夜のコンサートに出かけた時である。冬の海から吹き付けてくる風が300年を経た教会の扉の隙間から入ってくる中で分厚いケープに身を縮めて曲の始まりを待った、ヴィヴァルディが流れたとき私は300年もの過去に連れていかれてしまった。
 古い音楽にはそんなタイムスリップ効果があるようだ。今年は古関裕而といい、筒美京平といい日本の名作曲家が話題になった年であったが、それらを紹介した名曲を聴くとその時代の様々なことが何とも言えない感情と共に蘇ってくる。したがって、人の思い出は生きた思い出としてその音楽に埋められていると言って過言ではないだろう。

 「バロック時代のクリスマス音楽」は16世紀後半からバッハに至るドイツのルター派の曲を集めたものでそれらのほとんどがクリスマスミサの儀式と儀式の間に奏でられるものがほとんどなので曲としては2分くらいのものが多く、オルガンとヴァイオリンと合唱というような日本人には聞き慣れない組み合わせの曲がいくつかある。私のクリスマスミサの体験はウィーンが多いのでもう少し新しい時代のクリスマス音楽である。だが、このレコードの曲はそれに比べると鄙びた気がしないではないが、ヨーロッパの街中を車や汽車で旅した人なら分かると思うが通り過ぎた村に必ずある小さな教会を思い浮かべると間違いなくこの位のスケールのクリスマスミサ曲が演奏されるたに違いないとい思わざるをえない。私は小さな村に訪れ、教会にぶつかると必ず中に入る、残念がならそのような教会でのクリスマスミサ体験はないが想像が広がってくる。
 クリスマスの名曲「きよしこの夜」は教会のオルガンが壊れたことによって牧師さんがほぼ即興で愛用のギターでこの名曲をつくったと言われている。多分、彼のギターに神が舞い降りたのであろう。クリスマスらしい話である。そして、ギターで聖歌が歌える空間は小さな教会ならではと思われる。
 大バッハ、ブクステフーデのオルガンコラールは見事であるし、ヨハン・パッフェルベルも美しいコラールを書いている。かれは名曲「カノン」でメジャーになった作曲家だがこれがメジャーになる以前から知っており、最初に聴いた時は血の気が引いた。まさに天上の音楽であると思った。トゥールーズ室内管弦楽団というフランスの合奏団だった。これらの曲は多分どこかに紛れていた楽譜を探し当てて演奏したのであろうが、ヨーロッパにはこのような埋もれた名曲がまだまだある気がしないではない。
 これらの曲を一度聴かれるとイイ、あっという間に16世紀のヨーロッパの名もない村に連れて行ってくれるであろう。半世紀前、ここに何かあると感じた私はFM放送でその頃のバロック音楽の大家である皆川達夫氏や服部幸三氏が持っていた番組を必ず聴いていた。この二人は日本にバロック音楽を紹介した人物であったが、二人の最大の違いは古楽器に対する考え方であった。皆川氏が古楽器の演奏に否定的であったの対して、服部氏は好意的にとらえており、当時からそのスペシャリストであったアルノンクールを絶賛していたが、どういうわけか皆川氏は酷評をしていたので彼がアルノンクールのレコードを自分の番組で聴かせることはほとんどなかった。
 私はアルノンクールのバッハのヴァイオリン協奏曲のレコードを買って聴いた。半音低いバロックピッチで羊腸の弦から醸し出されるバッハに背筋が凍り付いた。それ以来、皆川氏の番組を聞かなくなったのを覚えている。だが、時代はアルノンクールを最高の指揮者として認め、かれの音楽は一つのカテゴリーとして、際物ではないという市民権を与えたようである。私は皆川氏よりその点では間違いなく真実を見ていたようだ。
 
 今週はクリスマスである。YouTubeか何かでバロック時代の音楽を探しあててください。
                                    泉 利治
2020年12月21日

Share on Facebook