ブランドワークス

Column

自動車のデザイン

 何週間前にホンダのデザインについて苦言を垂れた。しかし、この度、発売されたFITはまとまっている。そして、数週間前に発表されたHONDA-eのデザインは魅力的である。ただ、昨今の自動車のデザインの評価はそんな単独のデザインの良し悪しではなくなっている。どういうことかというとその企業独自のデザインアイデンティティというカラーの下でデザインされているのが前提にあって、それ下でデザインの良し悪しが評価される時代になってきたのである。

 私がデザインスクールで学んでいた時代は自動車のデザインの評価はイイデザインかワルイデザインかという時代であった。したがって、デザインがいい会社の車は販売しているあらゆる車種の自動車のデザインが良かった。その時代のデザインがイイ自動車メーカーに筆頭はホンダだった気がしているがトヨタはばらつきがあったし、日産は平均してデザインの水準は高かった。それに比べると三菱やスバルはひどかった。
 その頃、そんなデザインが下手な自動車メーカーに助っ人が現れた。イタリアのデザイナーへデザインだけを委託するというやり方である。ミケロッティ、ピニンファリーナ、ベルトーネそしてジウジアーロなどである。したがって、この会社にしてはイイデザインの車を発売したな?ということならそれは海外のデザイナーに依頼したということであった。
トラックのメーカーであったいすゞが乗用車をつくった時があった。技術的にトラックをつくれるくらいなので乗用車をつくる技術はあったようである。しかし、デザインは無理だと思ったのだろう。自社でデザインしたフローリアンという乗用車はあったが、この乗用車のデザインの酷さは空前絶後であった。そのあたりはいすゞの企業内のだれもがそう思ったのだろう。次からジウジアーロに依頼した。ジウジアーロは自動車史上に残る優れたデザインをやり遂げた。ISUZU117クーペとピアッツァである。
 この二つの自動車は自動車史上に残るデザインであろうし、ジウジアーロデザインの大きな潮流を代表する二つのデザインである。その頃の自動車のある評論家は、いすゞはツイてるメーカーである。と言わしめたのが印象的であった。どんな名デザイナーも出来不出来がある、そしてデザインの傾向が変わる時があるからだ。この二つの自動車は技術面ではごく普通のものだがデザインに関しては世界のどのメーカーのデザイナーもつくることができないデザインであった。
 その成功は弱小自動車メーカーが世界に飛び出るチャンスを感じさせたようである。たとえば韓国のヒュンダイが“PONY”をジウジアーロに依頼した。あっという間に洗練されたハッチバッククーペを販売した。その頃、ジウジアーロは自動車製造に関したコンサルティングをも提案するコンサルタントになっていた。
 しかし、それゆえかそれらの車はそのメーカーの企業アイデティティを失くしてしまったようだ。デザインこそ企業アイデンティティの象徴であるという考え方が主流になってきた。イタリアのデザイナーへの依頼は少なくなった。
 そんな中でホンダは初めて自動車をつくったメーカーにしては信じられないくらいデザインが素晴らしかった。スポーツカーのSシリーズ、N360,CIVICやACCORDの初期型は信じられないくらい素晴らしい。そのころの時代はデザイナーなどいてもたいした働きをしなかった時代である。では誰がそれを成したか?ホンダの場合、どうも本田宗一郎らしい?としかわからない。このハードルがかなり高い・・?
 たとえばN360が発売された年に私はデザインスクールに入学したのだがその新発売新聞広告を見て、確か30万円台のその新車、デザインはもちろん、価格もデザイナーの卵たちには魅力的であったのであろう。俺たちでも買えそうだな?と話し合ったものである。
 ホンダのデザインに関しては本田宗一郎が直接レンダリングを描かないまでも、デザインのディレクションと最終決定をしたのだろうと思われる。したがって、ホンダの自動車は企業としてのデザインアイデンティティがあったのである。その点でもホンダは時代を数十年も先駆けていたと言える。
 ここで冒頭に戻るとホンダのFITもHONDA-eも個々にはデザインはよくできたが、そこに企業としてのデザインアイデンティティがないのである。自動車のデザインの今は企業アイデンティティとしてのデザインに変わってきているのである。
 そういう視点で世界の自動車は動き始めている。事例を上げると、その評価にクリアしている自動車は日本ではTOYOTAとMAZDAだけである。世界ではドイツの五社、メルセデス、BMW,VW,ポルシェのそのあたりは伝統のような気がするが、改めて世界をめざしたAUDIを見ればわかる。このメーカー本来、無個性な中産階級の自動車であったが世界のめざすために自社の企業アイデンティティをデザインと技術という面から革新してきたのである。デザインではバンパーの下まで下がったフロントグリル、技術はクワトロ(四輪駆動)である。
フランスのプジョーやシトロエンやルノーは途上のような気がする。イタリアはアルファロメオとフェラーリが企業アイデンティティとしてのデザインが確立している。
 それらの企業の自動車はまずその企業のデザインアイデンティティのもとに全て車種がデザインされている。したがって、いわゆるグッドスタイリングは当たり前で、そのgood!の部分は前提条件ということになる。
 ホンダのデザインは多分、本田宗一郎という属人的なもので成り立っていたようであり、企業文化として根付いてはいなかったようである。その上、この会社は軽自動車とスポーツカーという対極にあるような車種をつくっており、日本市場とアメリカ市場という異なる市場が満足する自動車をつくろうとしている、という難しい課題に挑戦している。よほど優れたデザインディレクターがいなければ今の苦境を脱することはできないだろう。
                                   泉 利治
2020年10月12日

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