ブランドワークス

Column

 機械式というノスタルジア

4WDの駆動システムにも機械式と電子式がある。前者は蒸気機関車的であり、後者は新幹線的といえるであろう。4WDシステムではトルセンデフというのが機械式の冴えたるものであり、そのシステムの凄さに感嘆したものであった。しかし、今となってはその構造を考えるのは大変な手間がかかり、メンテナンスが大変なので、時代は間違いなく電子式を採用するようになった。
我が家の洗面所に時計があれば便利かなと思い、100円ショップで置時計を買ってきた。買ってきたときに入れた電池でもう3年も動いており、ほとんど狂わない。しかしそんな時計は我が家には3つしかない理由は電子式が好きではないからである。
そんなことから、我家には機械式の時計の現役が5つもありそれが毎日時を刻んでいる。その内容は掛け時計が一つ、置時計が2つ、腕時計が二つである。そのうちの一つが先日動かなくなった。20年近く前にウィーンで買った掛け時計である。二つの錘が付いた時計でもう寿命かなと思い、私が修理しようかとも考えた。というのはこの時計、これまで時々動かなくなるとKURE5-56をかけて1年くらい持たせてきたからである。ところが今回はだめだった。例の錘がなぜかロックして動かない。
ネットでいろいろ調べるとKUR5-56が元凶なのではないかということが分かった。というのはKURE5-56は自転車のバーツやドアの丁番などには良いが時計などの精密機械に使用すると油が固まって機械が機能しなくなるとのことであった。それを知って今度はそのような固形化した油を溶かすスプレーを購入して時間をかけて溶かした。時計は動くようになったが時を報せる鐘が鳴らない。そちら側の鎖が動かないのである。
 音のしない時計でもいいか?とも考えたがあの鐘が鳴らないのはどうも寂しいものだと思った。この音を聞くとはウィーンの街を思い出すのだ。
急遽どこのメーカーのものなのか調べてみた。Erwin Sattler というミュンヘンに拠点を置く時計メーカーであることが分かったが、詳細を知ると大変な高級時計メーカーで、その上、総合時計メーカーであった。総合時計メーカ―とはあらゆるカテゴリーの時計を作っているメーカーである。
 昔、SEIKO もSEIKOHSHAというブランドであった頃はそのブランドで腕時計から置時計、掛け時計、それから古い邸宅に鎮座していたファーザークロックまでも作っていたが、今はただの腕時計のメーカーになってしまった。
 ところがErwin Sattlerは歴史ある時計メーカーの誇りを持っていたのである。そんなことが分かるとどこかの腕のいい時計職人にこの掛け時計を修理してもらおうという気になった。Erwin Sattlerの時計は三越などで取り扱っているのでそこで聞いてみてもいいが現地で買ったものは保証の限りではありませんとか言いそうな気がしたので、NETで調べ始めたが、由比ガ浜通りに帝国堂という由緒ある時計店があるのを思い出し電話をしてみると昔はそのような時計を修理をする職人がいたのですが?ということで他を当たることになった。
 調べてみるとそのような修理を承りますというのが所が結構ある。が、かなり面倒なことが分かった。まず、ほとんどがトンデモナイ遠方の地方にある。その上、こちらから厳重に荷造りして送り、そこで見積もりをしてOKなら修理をして、だいたい3万円くらいの金額が修理代、部品が破損していた場合、製作するとなると更に金額が加算される。そこで断ると運送費こちら持ちで返却という金のかかるシステム。これならそれなりの掛け時計の新品が買えそうであり、電子式なら3つも買えそうである。
機械式というものは今となっては高いモノになっている?しかし、この掛け時計は我が家の記憶を持っているような気がして、ネットで更に探すと、格好の店が見つかった。ただ、そこは自分で持ち込まないといけない店で、HPの写真では私より5,6歳年上の時計職人が一人でやっている店であった。事前に電話をするとその場で見積もりをしてくれた、症状を話すとだいたい1.5万円という値段も悪くないと思い、あざみ野のその店に出かけた。
 約束通りの値段で10日後に取りに行った。生き返ったその時計は、この調子では私より長生きしそうな感じがした。今のところ、かなり正確に動いてくれている。ここのところ誤差は3秒/日くらいなのではないか。いい腕の職人であった。
 請け取る際に注意されたのは絶対に油をささないことであったので、それを聞いて目の前にあるキャリッジクロックには油を指すのはよそう!
私の机にあるキャリッジクロックはロンドンのアスプレーで購入したもので一週間巻のものだが居間にあるモノは麻布十番のアンテークショップで買ったフランス製で、日付、曜日、ムーンフェース、リピーターなど装備されており、キャリッジクロックとしては当然であろうが持ち運び用の革ケースが付いている。この時計はアンティークなのでもしかすると本当に満月を利用してテームズ河を遡ったのかもしれない。とくに感動的だったのは文字盤がホーロー印刷であったことだ。
 後の二つは私の腕時計で60年前に購入したエニカのシェルパ。これは第1回の南極観測隊の公式時計として有名になった。また当時の登山家の憧れの時計でもあった。そして、もう一つ、一番新しいのは20年前に購入したパテックフィリップこれは言わずもがな?
この二つの腕時計は毎日、腕にするようにしている。自動巻であるからである。しないと拗ねて止まってしまう。機械式のものには何となく人間に似たところがあるのだ。考えてみるとこの5つの時計にパワーを与えているのは私なのだが、あとどのくらい出来るかな?しかし、後継者がいれば間違いなく動き続けるであろう。
もう一つ、機械式の音楽装置の一つでスイスのツェルマットに行った記念にガラスケースに入ったオルゴールがあった。チャイコフスキーの三曲入っている。これもそうだがキャリッジクロックと同じガラス越しに中の機械装置を見ることができる。それが美しいからである。
                                  泉 利治
2020年9月14日

Share on Facebook