ブランドワークス

Column

1兆円のブランド戦略

この論考は書きたいテーマが思い浮かんでから書きはじめるのだが、最近、心配なことはこのテーマ、昔書いたのではないかと思うことである。歳をとると同じ事を何回も言うというような事を言われるからだ。その原因は(これは年寄りになってはじめてわかることなのだが)以前、言ったことを忘れてしまうからである。ただ間違いないことはそのことはその人にとって重要なことであることは間違いない。また、物書きにとって、重要なことは文章の中で3回繰り返すことともいわれているからである。
 仕事を共にする予定の人に自分の紹介を針小棒大に伝えるために最近よく使うフレーズがこのタイトルである。たしかに針小棒大な言い草だが、企業の業績を高めることを旨としてお金をもらってきた立場からすると一番わかりやすいことは“君の戦略でいくら売り上げを上げたのだね?”という質問に一言で応える答えであるからだ。私はブランド戦略をつくる専門家なのでブランドイメージを高めることなので・・・なんていうのは正直私の性に合わない答えなのだ。
 私が関わったプロジェクトで直接関与貢献最高額はX社の一千億円かと思っていたが、一兆円というのがあったことが判ったのだ。この金額は毎年一兆円売り上げているということなのである。したがって累積でいうとY社の場合10年で10兆円ということになる。X社だって10年で一兆円だが、10兆円とは信じがたい数字である。X社とY社、その違いの差は国内市場だけのビジネスとグローバル市場をも相手にしていたビジネスとの違いである。
 “謀を帷幄の中に運らして千里の外に勝利を決する“
結果としてそのようなことを成し遂げたのである。しかし、いま考えてみるとこれは天運を見極めたということでもある。
 “幸運は身構える精神に味方する”
天運とはここで言う幸運のことである。天を仰ぐと世の中の動きや明日起こることが判るという事である。X社、とY社の結果は少なからずこの二つの格言がその真実を言い当てている気がしないではない。前者の言葉を私は司馬遷の「史記」で知ったし、後者はアンリ・ベルグソンの言葉で、何かの本(コリン・ウイルソン?)で知った言葉である。この二つが特に記憶に残ったのは私の生き方に共鳴するところがあったからであろう。
 ビジネス上の成功で何が一番重要か?私に言わせればクライアントに約束した以上のものを提供できる結果を上げられるか否かである。今から考えると1兆円はまぐれとは言わないがこれほどの結果が出るとは正直思っても見ない結果である。なぜ、このような結果が出たのだろうかということを考えるのが今回のテーマである。
 結論から先に言うといわゆる天運というやつなのだろうが、天も運も我々の力の及ばないところにある事は確かのだが天も運も、われわれが感じることは出来るのである。そうすると天の声、運の力にそった行動を起こせばいいのである。昔は一企業の力で天の声、運の力に匹敵するパワーを生み出すことは可能なのではないのではないかと考えて、いくつか事例も上げることができそうな気がしたが、最近分かったことはそのようなことも総て、結局、天の声、運の力が下支えしていることが判ってきた。
 例えばY社の場合、巨大なアメリカ市場の事務機器分野において、認知率1%にも満たないブランド力をどう高めていくかということが課題であった。当初、認知率を高めるために広告・宣伝に頼り、広告代理店の言うがままに多分100億円近くの資金を投入し、ありとあらゆることをやった。しかし、認知率を高めてもそれがY社の製品と結びつかなかったので売り上げにつながらなかった。
 それ以上にそのブランド戦略にミスがあった。企業のブランドの認知を高めようとしているのも間違いだった。というのはメーカーのブランド価値の原点は企業ではなく、製品なのである。順番として優れた製品が先にきて、次にその製品を作っている企業が来るのが順序である。それなのにY社は企業名ばかり連呼していたのである。
 その愚に気づいた私は単純に優れた製品にネーミングをしてその製品を売り出しませんかと提案しただけなのである。単純なことである。しかし、ここに天の声、運の力があったのである。その製品はいわゆるデジタル時代の最新鋭機器であったのだ。市場とユーザーは今までとは全く違うデジタルコピー機を体験して、驚いた。思った通り口コミでその製品名があっという間に伝わっていった。そうすると二次的な効果もあった。では、そんな優れた製品を作っている企業は何という会社なのか?という事である。
 新時代のデジタル機器メーカーとしてY社の知名度は高まり、それまでアメリカ市場の双璧と言われた2社は旧弊な事務機器を作っているメーカーというイメージがふさわしくなったのである。
 この商品ブランド戦略はヨーロッパ市場で功を奏した、というのはY社はヨーロッパの昔ながらの事務機器メーカーを買収して販路を拡大していった。したがって、昔ながらの事務機器メーカー名はその国では知られた存在であった。つまり、企業ブランドのクレジット力は十分だったのである。それならアメリカ市場を席巻したそのプロダクトブランドをヨーロッパの老舗ブランドのクレジットで売れば鬼に金棒である。案の定、ヨーロッパ市場でも大ヒットし、欧米での売上は日本市場に匹敵する規模の1兆円にまでなった。
 この天運とはデジタル時代ということを読み切った結果である。これなくしてこの戦略は成功しなかったのではないかと思っている。どんな時代にもこの天の声、運の力というものは存在する。したがって、そのことに対して常に身構えていることが重要なのである。
 どうやってそれを感じとり、その気運をつかまえるか?天を仰ぐことかもしれない。天を仰いで、気を感じることである。都会に住んでいると天が見えない、天を仰いでもビルの隙間に入っていると大きな天は見えない。天を仰ぎ、風を感じ、陽光の中に真理を見ることなのだ。
                        

文責:泉利治
2019年5月6日

Share on Facebook