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Column

アストンマーチン

私の憧れの車はこの60年近く変わらない。アストンマーチンに魅了されたきっかけは
「007ゴールドフィンガー」である。中学校の頃から自動車は好きだった、その理由は家業の関係で「毎日グラフ」の年に何回か出る自動車特集の写真集を必ず見ることができたからだ。時代は高度成長期で自動車は産業の花形であった。しかし、そんな中でアストンマーチンは決して華やかな存在ではなかった。だから、ゴールドフィンガーという映画で初めてその存在を知ることになるのだが、写真だけではなく走っているその姿に魅了された男の子は何人かいたのではないか?
 年代を調べるとその映画は1965年に上映しているので私は19歳の頃であったが、今と違って自分が自動車を運転するなどとは露ほども考えなかった時代である。それでもアストンマーチンは素晴らしい自動車であった。とくに映画で使用しているシルバーメタリックのアローラインテールフィンのDB5は当時トライアンフTR4などと同じで何とも魅力的であった。 
この映画の最大の魅力は秘密兵器搭載のアストンマーチンDB5である。あれがスイスの山道をマスタングとカーチェースをするさまはあの映画のクライマックスなのではないか。映画の中でカーチェースがアクションシーンの定番になったのはこれが最初と記憶している。私はイアン・フレミングの原書の中ではどのように書かれているのだろうかと思い早川ノベルスを買った。そこにはこんなふれ込みでこの車は登場する。
 “ジェームス・ボンドは、高速DB3型車で直線コースの最後の1マイルをすっとばすと、レース用のギアからサードに下げ、さらにロチェスターを抜けるためにはやむをえない、はうような車の混雑にいたる手前の、短い登りで、ギアをセコンドに切りかえた。ビロードのように当たりのやわらかい前輪のブレーキに手綱を引かれたような格好で、エンジンが抗議でもするように・・・・”から始まり。
 次の記述は映画とリンクするところである“車は秘密情報部の車庫から回したものだった。ボンドは、アストンマーチンかジャガーの3.4にしたらいいだろうといわれたがDB3をとったのだった。どの車でも、ボンドの今度のふれこみには合っている―金まわりがよくて冒険好き、ぜいたくな放らつな生活が趣味だという若い男という格好だ。しかもDB3にはどこから見ても近代的なスマートさがあり、地味な色―軍艦みたいな鼠色・・・・”
 私は50年前のある日その映画と同じ色のアストンマーチンを近所で見かけたのである。私の方に向かってくるシルバーメタリックのアストンマーチンは50年近く経った今でも私の目に焼き付いている。あんな車を愛車にできたらこの上もない幸せだろうと思った。あれから50年経ってもアストンマーチンはやはり魅力的な車である。その存在はイアン・フレミングが書いたような位置づけを保っているから不思議である。
 東京で仕事をしていた時、豊かになった日本ではロンドンほどではないにしてもアストンマーチンは時々見かけることができた。デザインは新しくなって経営母体は50年前とは違うと思われるが、その品格は守られているのはよほどデザインポリシーがしっかりしており、デザインディレクターがしっかりしているからなのだろう。
 
小春日和の今日は燦燦と朝のひかりが舞い踊るような日曜日であった。こんな日の鎌倉は珍しい車がまさに啓蟄を迎えた虫のように動き出すのだ、ポルシェ、ロータス、アルファロメオ・スパイダー、そして・・・。私は妻の誕生日ケーキを買いに西鎌倉に向かった後、朝食用のパンを買いに片瀬山に向かう。モノレール下の昔、有料道路であった道をサンルーフを開けて走った。その道沿いにある片瀬山の駅は一番の高台でそこから腰越の海が一望できる。そこから坂を下りて走って帰るとき、右からアストンマーチンが私の前に飛び込んできた。しかし、信号で止められたので濃い目のグレーメタリックのアストンマーチンは私のまえから遠ざかり見えなくなった。
私はその型式が知りたかったので追いかけることにした、私の前の道は一台の車もなかったので鎌倉山辺りで追いつくだろうと思った。アストンマーチンの後姿が見えた。鎌倉山の入口で追いついた私は右上にDB9のエンブレムを認めた。イアン・フレミングのオリジナルではDB3が、映画ではDB5が・・・原書は1959年書かれたので60年前、とすると10年で一つupする計算である。
鎌倉山のワインディングロードはFRのアストンマーチンDB9より私のBMW330xi,の方が勝ったようである。アストンマーチンは少し大きすぎるし、あの曲がりくねった狭いカーブ道は苦手だろう、そのうえ私のBMWはXドライブ仕様なのでこのような道は得意なのだ。ゴールドフィンガーのスイス、フルカ峠のカーチェースほどではないが、それでなくとも鎌倉山の走行は楽しい。もう10日もするとこの道は櫻で華やぐであろう。
海が見える道沿いで思い出したのだがヒッチコックの名作「鳥」でもアストンマーチンが登場する、主役のティッピー・ヘンドレンの愛車がアストンマーチンDB2markⅡである。DB3と同じころの車らしいが、半世紀以上前のアストンマーチンでも格調が高い。私はこの実在のボデガ湾に一度行きたいものだと思ったが今ならサンフランシスコから車を借りていくことは可能だ。今でも、あの撮影で使った小学校は見ることができるそうである。
同じころの私の記憶にこのアストンマーチンDB2か3が野ざらしで青山の中古車置き場?で見かけたのである。私のデザインスクールは当時、赤坂見附にあってそこまで渋谷からバスで通ったのだがあの青山1丁目辺りは246沿いでありながら空き地が多く、中古車の置き場?もしくは店舗らしきところかあって、私はその中にポツンと売れ残ってしまったモスグリーンのアストンマーチンを見かけたのだ。結構、長い間売れ残っていたようである。今なら大変なお宝で何百万円かけてもレストアする人が世界中にいると思われる。あの時代、貧しい世の中なので訳の分からない外車を買うようなもの好きはいなかったと思われる。この光景もどういうわけか脳裏に焼き付いている。
                                文責:泉利治
2019年4月1日

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