ブランドワークス

Column

コレクティブインパクト

本考の読者なら何を今さらと言われるかもしれないが、時代遅れのストラテジストの私にしてみれば分かっているけれど、これが解決法として取り上げてみるだけの価値があると思ったら取り組まないといけないのである。
 コレクティブインパクトとは社会的課題を解決する新しい手法という事である。“立場の異なる組織(行政・企業・NPO.・有志団体・・)が組織の壁を超えてお互いの強みを出し合って社会的課題の解決をめざすアプローチ”と言われるものだが、私はこの手法が今かかえているプロジェクトの問題解決のソリューションになる気がしているのだ。
 私にとっての年末年始は集中して仕事ができるいい時期であり、この期間に溜まっていた仕事を一気に片づけるまたとないチャンスなのである。しかし、あるプロジェクトの問題解決の糸口が見つかったがそれを解決する手法が分からずに悶々としていた頃に松の内も明けない4日に定期購読をしているハーバートビジネスレビューが届いた。と言ってもそれどころではない。2日ぐらいして本のページをめくると「コレクティブインパクト」という聞き慣れない言葉が目に入った。めんどくさいな!・・・このような訳の分からない言葉はまず拒否反応するというのが年寄りの特性である。
 しかし、読んでみるかと思い最初のページを見て、まず閃いたことは、これは今かかえている課題の解決手法になるのではないかと思い、一気に読んでしまった。スタンフォード大学で2011年に書かれた論文であるらしいが、それでも7年近く経っている。
 それ以上にこれはCSVとも絡んでおり、その執筆者のマーク・クラマー氏はマイケル・ポーターとCSVについての論文を同じ2011年にHBRに寄稿している。CSVに関する論文はポーター教授がすでに2006年に「Strategy&Society」というテーマで書いている。当時わたしはその論文を読んだ記憶があるがあまり気には留めなかった。どんな時代でも先駆的な考えは20年の歳月でそこそこの人たちに取り上げられて陽の目を見るのだ。
 正直、2006年の頃はポーターの古典的な戦略論で十分事足りたからだ。わたしはその頃、多分、ポーター戦略論をブランド戦略に応用した方法論で最も繁盛していた時期であったからだ。その頃バブルが崩壊しどの企業も目先の効果を求めて暗中模索の段階だった。今から考えると信じられない大企業がせいぜい10人に満たない小さな会社に億の桁の数字の金額を払っても手がかりを求めていた時期であった。
 そんな時には即効性のある戦略が求められる。当時、CSVの根幹にある社会的価値を追求する戦略は経営者の琴線に触れるようなキーワードにはならなかったのだ。その20年前のCIで企業市民というような概念がまことしやかに語られてそのような概念になんとはないうさん臭いものを多くの企業は感じていたと思ったからだ。私のブランド戦略論はいわゆる厳正な企業戦略の古典をベースに組み立てられていたので殊のほか説得力があったのではないかと考えていた。したがって、そんな時に社会的価値・・・と言う概念は数年前の失敗の蒸し返しになると思ったのだ。
 ただ、こんな話は気にはなっていた。
「ネスレは育児用のミルクを生産する会社としてスイスに誕生した。コーポレートブランドを思い出してほしい。鳥の巣に母鳥と数羽の子鳥がいるマークである。かれらの企業使命は赤ちゃんを育てるミルクがいろいろな事情で与えられない時に母乳に代わる上質なミルクを生産することであった。ネスレが確かインドだと思うがそんなインドの母乳事情を知ってインドの赤ちゃんに母乳に代わるミルクのビジネス展開しようと考えた。ところがインドではミルクを必要とする習慣はないのでミルクを供給できる乳牛がいないことが分かった。原料の牛乳をまさかスイスから空輸するわけにはいかない。インドの酪農業者に育ててもらった牛からの搾りたての牛乳を加工するのが一番いい。そこでネスレは工場の近くの農民に牛を育ててもらうことが一番いいのではないかと考えた。そうすることで農民の収入,それも安定した収入が約束されることになる。そこで生まれたミルクが何人の将来のインド支える赤ちゃんを救うことができるのか。勿論、農民に酪農のノウハウを授けるのはネスレである。ネスレはインドでのビジネスのホームベースをつくることができるようになる。ネスレのミルクで育った赤ちゃんは多分生涯ネスレのロイヤルユーザーとなって、ネスレの経営に貢献することだろう。今、流行りの言葉でいえばwin winの構造である。」
 私はこの話を20年近く前に知って気にはなってはいたが、こんなことがビジネスの主流の戦略になるとは思っても見なかった。ところが現在、そのやり方は主流になりつつあるのだ。そのようなビジネスをイメージすること、そしてそれを実現するために多くの人の知恵を活用するための方法が「Collective Impact」という方法なのである。
 この話を企業側から見るとこれまでの発想では下請け業者を育てたということになるのだろうがその業者の生活が豊かになり、その税金で村が豊かになり、学校ができたり、医療施設ができたとしたとしたならば企業価値と社会的価値を両立させたことになる。これを早く実現するには企業と行政が協力しなくてはならない。今までそんなことはありえなかった。何となく汚職の温床になりそうな気配がするものだ。しかし、そうでなかったらなんとも建設的なことができそうである。
 このような新しいビジネスの発想は必ず欧米から生まれる。その典型がGAFAである。多分、欧米にはこれからのビジネスの種が無尽蔵に眠っているのだろう。それを虎視眈々と狙っているのが中国だ。まさに狙っているのだ、彼らは同じようなハンターではなく死肉をねらうハイエナのような存在のような気がしないではない。最初からハントする気がなく死肉を狙うことが目的なのか?かつてはまさに世界の中心にいたはずなのだが?
                               
 

文責:泉利治

 

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