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Column

エマ・トンプソン

 アマゾンプライムビデオの会員になっているおかげでいつでも好きな映画を見られるようになった。今まではケーブルテレビの中の映画のメニューを契約していたので、その中で映画を見ていたが別に事前に番組表を見るわけではないので行き当たりばったり、面白そうな映画にたまたま当たったらそれを見るという感じであった。エマ・トンプソン主演の「新しい人生の始め方」はその中でひとつであった。
 何か月か前にアマゾンプライム会員であることが分かり立て続けに見たい映画を見たのだが、忙しさが重なってここ2カ月ばかりみる機会がなかった。そんな昨夜、ちょっと時間が空いたので何か見たい映画はないか物色していたら以前に見た「新しい人生の始め方」のスチルが目に留まった。この映画ロンドンが舞台であったことを思い出した。どちらかというと映画の内容よりロンドンが見たくなってこの映画を見ることにした。
 ロンドンはこのところご無沙汰で、10年前にバイブリーに行って以来だなどと思いながら、映画をみた。「Last Chance Harvey」の原題が示すようにダスティン・ホフマンが主役になるのかもしれないが、舞台はアメリカではなくロンドン。
数えきれないくらいロンドンに行った人の視点で見る場合、映画の内容もさることながらその舞台である、その街の風景を見るのも楽しみである。不思議な能力として映画やテレビでヨーロッパの街が映されると一目でどこの国の街かがすぐわかるという不思議な能力を身につけたのも毎年、少なくとも10年近く一月かけてヨーロッパの街を駆け回ったおかげである。
 ヒースロー空港からタクシーで市内に向かう道すがら映し出される景色を見るとああここはグレーンパーク沿いの道、パークレーンを走っているなどといった想像をめぐらすのが楽しいのである。
 エマ・トンプソンはこの映画の中でもやはり、結婚に縁遠い役を与えられている、その彼女が職場であるヒースロー空港に向かうチューブを待つ姿が映し出されるが、その姿が美しく見入ってしまう。それを見ながら彼女の映画を何本見たのだろうと考えた。彼女の映画はどれも素晴らしかった。「いつか晴れた日に」「ハワーズエンド」「ラブアクチュアリー」「日の名残り」・・・・決して美人女優というわけではないと思うが、英国という風土を身につけた女優なのだ。それゆえか、その素晴らしい人格や人柄、人間性が作品ににじみ出てくる気がする。
 彼女はケンブリッジ大学を出た才媛で脚本も書くらしく、ジェーン・オースティンの脚本を書いたというから「いつか晴れた日に」かもしれない?あの映画の何といっても一番面白いところはヒュー・グラントが真面目に演技をしていることだ。神妙な表情で役柄を演ずる彼の演技はどことなく滑稽に映るから面白い。
 私は英語など話せないがいわゆる本場イギリスの英語かどうかは分かるので彼女の英語はやはり、高等教育を受けた英国人の英語でそのあたりの素晴らしさに聞き入ってしまう。アメリカ英語に比べると、ゆっくり目でメリハリのきいた単語をキチンと話して文章にしたような英語なのだ。昔、インターブランド社のイングランド出身の社長Mr.オリバー氏とニューヨークに出張した時、ハンバーガーショップの女性の話す英語が気に障ったらしく、クィーンズ・イングリッシュを聞かせてやるということで英国の観光客然としてその女性にあれこれQEで質問をしたのを脇で聞いていたのでそんな違いが分かるようになったのかもしれない。エマ・トンプソンの英語もそんな英語なのだ。したがって日本人の英語初心者にとっても明らかに彼女の英語はわかりやすいと思われる。
 エマ・トンプソンの脚本といえばイギリス人の作家は小説と同様に脚本を手掛けるという文化がある。舞台芸術がポピュラーで特別のものではないという背景があるような気がしているが、それはシェイクスピアゆえで、彼の書いた文学は脚本だからなのではないか。また、それが文字文学として最高のモノとして認められているからだろうと思われる。ジェフリー・アーチャーなども脚本を書いており、その芝居がヒットしたことで文壇での存在感が増すので、そのあたりが日本との違いかもしれない。
脚本が芸術として認められているのはシェイクスピアがバッハやモーツアルトの作品のようにクラシックとしてあり、それを演出家や俳優が新しい解釈をして世に問う構造と同じようなのだから、日本とは違う芸術のジャンルがあるのだろう。
 そのあたりの面白さが分かること自体がかの国では文化なのだろう。しかし、この国ではそこまでいかない。私などは実際のところ、芝居など観ない、というより観る機会がないので如何ともしがたい。したがって、そんなところに情熱を燃やすエマ・トンプソンには別の意味でも憧れてしまう。そのあたりの知の奥深さが人をしてそのような志向に決定づけ、育てるのであろう。

泉利治

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