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Column

HBR

 今年の2月で切れたハーバートビジネスレビュー1年とっては見たものの、以前に比べると内容的に日本の話題の経営者インタビュー記事などが多くなり、研究書というより経営雑誌にのようで、もういいかなという思いから延長する気にはならなかった。20年くらい前から会社でHBRを取っていたので毎月興味深く読んだものであった。その頃の興味はやはり、海外のビジネスに関するシズルな情報や新しい論文などから最先端の考え方やスキル等を学ぶことが主たる目的であった。
 また、HBRは良く振り返りの企画があった。たとえばドラッガーやレビットの古典に入るような論文の解説がそのころのビジネス事情に合わせて紹介されたものであった。いわゆる大御所の論文は50年前に書かれたものであっても納得させられるところが多かった。また、私はポーター信者のようなものなのでポーターの論文が掲載されると貪るように読んだものであった。そうこうしているうちにリタイヤをしてHBRとは全くご無沙汰をすることになった。
 だが、また何となく昔のような仕事にするようになり、それも片手間なバイトではなく本格的なプロジェクトを3社も請け負うにあたり、その5年間のブランクを何で埋めようかと考えた時最初に思ったことは、またHBRでも読んでみようかと思ったことであった。再読したのにはこんなわけがあったのだ。
 最初に書いたように一年購読して期待外れだったので、再契約の催促が来たときにほったらかししていたので当然ながら2か月前くらいで切れてしまった。そうこうしているうちに3社のうちの1社から、経営幹部研修の講師をやってくれないかという依頼が舞い込んできた。社長は何人かいる社長候補者の現時点での実力を知りたいということであった。
 そのためのインタビューをして、話を聞くと一人ひとりがビジネスの現場でどのように考えているのかを知りたいということなのだ。それは今後直面するであろうビジネスの局面でのその人の行動を知る手掛かりになるということである。確かに話し合ってみればその人の人となりは分かるかもしれないが、社長と対面では何かとバイアスがかかりそうである。なので、ごく自然な状況で多くの幹部候補生を見てみたいということなのだ。
 2日間という限られた時間の中で有効な手立ては何かを考えた結果、①知識②学習能力③発想力④リーダーシップ⑤プレゼンテーションなどについて知ることが重要かと思われた。①の知識とは自分の携わっている仕事や業界についての知識であり。②の学習能力は自分の知らないことを短期間に学ぶ力であり。③の発想力はビジネスの現場で新しい局面に対峙した時の判断力や思考力であり。④のリーダーシップは自部門をまとめたり、顧客や他企業との協業の際のリーダーシップも含まれる。⑤のプレゼンテーションは業務内での通常のプレゼンテーションは勿論だが自分の人間的な魅力のアピールや仕事以外での魅力なども含まれる。
 そんなことから合宿の50日前に合宿の案内と同時に参画メンバーに宿題を出すことにした。とくに今回は未来のトップマネジメントなので戦略立案能力を高めることが重要であろうとのことから、戦略立案の大御所であるポーター戦略論の中の基本的なフォーマットを使用することにした。あとそれを補足するようなこととして、SWOT分析やコアコンピタンスの観点からも検討するようにとの注文を付けた。
 そのねらいは参画した人たちは企業内でもトップレベルの人たちなのそれらの資料が明日から役立つに違いないという思わくがあったのだ。確かに自社の5フォース分析やバリューチェーンを現場の一線でやっている人たちがつくったとしたらそれは貴重な経営資産に違いない。明日の重要なディシジョンに使えるものである。
 その後はそれら各人がつくった分析や戦略仮説をチームの意見としてリファインするということである。そこでは優秀な人たち同士のディベートやプレゼンテーションが展開される。それをまとめるにはリーダーシップが必要である。その行為自体が戦略会議の様相を呈してくるのである。
 会社で実際に行われる研修には有効なもの以上に、有害なものが結構多いものである。たとえばその人の人間性を否定するところから何かをつかまえさせようとするような類のものである。また、軍隊のサバイバルゲームまがいのモノなどである。これらの研修は「ビジネス」という言葉が使われる以前の「商売」ということが日常であった、それこそ戦前の価値観に基づいた時代の遺物である。
 私が印象に残っているのは与えられた道具で無人島から脱出する計画を競う研修を2泊3日でやるのだが、日本がそんなことをやっていた時にアメリカのビジネススクールは新しいビジネス戦略のフォーマットを考えていたのである。この違いの差に何となく日本の後進性を感じるのは私だけではあるまい。
 こんな仕事が舞い込んでくるなんて思っても見ないことだったが、ともかく切り抜けられたのはいわゆる一般的な戦略論についての知識があったことで救われたのだが、今度もう一度やってほしいと言われたら何か新機軸がないと格好がつかない。それ以上に思ったことは私の使った方法でイマのビジネス戦略を描くのには少々心もとないところがある。今日のビジネスの最先端のスキルとはそれこそ新たなビジネスモデルでもって、市場に殴り込みをかけるようなやり方なのであるからだ。そんなヒントを何か探したくてHBRを再読し始めたのである。

泉利治

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