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Column

IKEAと大塚家具

ここ半月、家族が一人増えたことで2度ばかり,一日がかりでIKEAに出かけた。
車で簡単に行けるとところにあの巨大なIKEAの店があるからだ。あれを店というのは少々心もとないがそこは間違いなくお店である。遅めの午前中に出かけ、まず腹ごしらえをする。IKEAの中にセルフ形式のレストランがあって、スエ―デン料理をまず食べるのだが、ここがまたお洒落で、何度か欧米に出かけたことがある人なら、何となくスエ―デンにいるような一種の疑似体験をさせてくれる。
それでも儲けものなのだが、味は別として価格はかなり安価だ。しかし、ここは味を問う場所ではない。私なんか昨日は500円の「ナポリタンペンネとハンバーグ」食べたのだが、トマトソースで炒めたペンネの上に載っているハンバーグがなんとも軍人食堂か刑務所の料理のように思えた。スマホを持っていたので写真を撮っておけばよかったと思うのだが、そのハンバーグステーキのグロテスクなカタチは異様なもので食べ物という感じで異様なインパクトがある。今から考えるとトマトソース味のペンネの上にハンバーグを載せるのではなく、ハンバーグの上にトマトソースのペンネをかければそんなにグロテスクには見えない感じがしたが、そのあたりは西洋人と日本人の感性の違いかもしれない。
それから本格的に家具のハンティングに出かけるのだが、ともかく何もかもお洒落でグッドデザインで価格破壊なのである。ここにくると何もかも愕然とするばかりで、これを見る限り大塚家具の業績が良くなるわけはないと思ってしまう。実際のところ大塚家具の価格の10分の1なのではないかと思えてしまう。というのが私は30年前お台場の大塚家具にまで出かけて現在の家の家具を取りそろえたからである。
それでも当時の大塚家具は最先端の家具店であった。巨大な店で世界の最先端の現物の家具を実際に自分の目で見て、手に触れて買うことが出来る。当時、家具は一生の買い物なので訪れた客の一人ひとりに専門家が付いて、いろいろ相談にのってくれる。価格は別としてセレブな気分にしてくれるという付加価値があったようである。我が家ではカーテンなども設えたのでその専門家がカーテン制作担当者と我が家に訪れてカーテンなどの採寸もしてくれた。そういう店が大塚家具であった。今から考えると確かに時代に合わないビジネススタイルかもしれないが。

IKEAはそのビジネススタイルを根底から変えたものである。私はもう20年以上も前にHBRのマイケル・ポーターの解説をバリューチェーンの図と共に思い出してしまう。とくにその見事にコーディネートされた店舗で買い物が終わった先にある巨大な倉庫に行ってメモした家具のパーツを自分でカート入れて、スーパーのレジようなところで精算して、自分で乗ってきた車のトランクに入れるまで、世界基準で統一されているのだ。勿論その中にはレストランもあるのだが・・・確かにこれでは大塚家具は絶対勝てるわけはない。ただ、私はニトリに入ったことがないので、ここが逆にIKEAを攻略しているとのことでこのあたりがビジネスの面白さであり、当事者からすると厳しさである。
IKEAのビジネス戦略の勝利はボリュームゾーンにフォーカスしたコストリダーシップ戦略を徹底的に追求した結果で、家具という商品特性を考えるとあのアマゾンでも本質的にここには太刀打ちできないであろう。本来、家具をパソコン画面で買うわけにはいかないことは誰でも見当がつく。あの空間を体験しないで購入するリスクは誰もが想像できる。それにその体験が多分何とも言えない楽しみなのだ。

IKEAの中を足が疲れるくらい歩き回った中で一番感動したのは子供部屋のモデルである。今の親たちは子どもたちにこんな世界を提供できるのだと思ったことである。子どもにとって自分の部屋は本来、ファンタジー世界といえる。と思ったのは昔、ディズニーのピーターパンを見た時に自分の部屋で海賊ごっこができるそんな設えにこれこそ理想的な子供部屋と思ったからだ。IKEAの中にあった子供部屋はそんな気にさせるものであった。
実際に20年前に私が子どものために買った家具は勉強机とベットであった。今から考えるとどう考えても子供部屋には似つかわしいデザインと機能であった。カーテンやベッドカバーは何とか子どもの世界にふさわしいものを選ぶことが出来たがそれでも限界はあった。それに比べるとIKEAのそれは小さな子供部屋を面積で捉えるのではなく、体積で捉えた感動的なもので、まさに子供部屋とは子どもの世界なのだということを物語るものであった。しかしそれ以上に感動的なのはそれだけの世界が想定外の価格で実現できるという事である。
 人生でもっとも重要な時期である子ども時代の設えをいとも簡単に手に入れられる。という事はなんと素晴らしいことだろうか?IKEAのバリューチェーンの中にデザインの質というものもあると思う。つまり、一流のデザイナーを自在に使って最高の質のものを提供できるそのビジネスモデルである。本来、子供部屋のデザインに高価なデザイナーを使うことが出来るとしたならば今までのビジネスモデルで考えると機能的な勉強机がせいぜいだった。その範囲での仕事の依頼になるのではないか。もしデザイナーが理想的な子供部屋自体をデザイン提案しても企業が実現できるのは一個の勉強机だけで、あとは商売にはなりませんよ?といって笑っておしまいの話である。
 私の時代には家具デザイナーはいたが子供部屋の空間デザイナーはいなかった。やはり貧しい時代だったのだろう。だが、この話は日本人の生活感や住居観の歴史に関わる問題なのかもしれない。いずれにしてもビジネスとして考えると勉強机一つのビジネスと子供部屋全体のビジネスを考えると価格の単位が違ってくることは誰でも分かる。大塚家具とIKEAのビジネスに違いにはそんな起源的な違いが両企業の業績に影響している気がしないではない。

泉利治

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