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Column

マネーポリティクス

 マネーボールという映画をケーブルテレビで見た。といってもマネーは好きだが野球はあまり好きではないという程度なのだが、かなり事実ベースの話のようでストーリーはなかなか良かった。ゲームの中に統計学を持ち込むこと自体はそんなに新しいことではないが、それを現代のベースボールに持ち込んでチームを再生するという話は小気味いい。
 その中で興味深かったのは統計学理論、セイバーメトリクスによって選手を、株のように売り買いするところであった。選手の強みを細分化して、状況において使い分けてゆく。一般的に野球選手は打ってよし、守ってよし、走ってよしの選手がよい選手といわれるが、そんな選手は奇跡に近く、その上高額な年俸を拂わざるを得ないので、貧乏球団には手が届くわけはない。ところが打てないけれど選球眼がいいのでフォアボールで塁に出れる選手がいたとしたなら、それは首位打者に匹敵する価値を持つのである。一般的な野球界ではそんな選手の商品価値は極端に低いはずだ。それなら安く買える。てな具合で様々な戦術にフィットする選手を買いそろえる。そのための資金は自分のチームで高く売れそうな選手を高く売る。その高く売れる選手は無名の選手を自球団で育て、活躍させて市場価値をつけるので儲かるのである。選手という人間を売ったり買ったりする様は一見、異様な感じだがこれがアメリカなのだろうなと思えば面白い。
 それを見ながら、今回、トランプ大統領が国務長官を更迭した状況はこんなものなのだろうと思った。というのはあの北朝鮮と交渉するには多分、ティラーソンでは弱いと考えたのだろう。それにティラーソンに関して北朝鮮はあらゆる情報を収集しており、すでに北朝鮮の手の裡で何とかなる人材と思っていたのではないだろうか?
 それを見越したトランプが新しい国務長官を指名した。この人材、何となく北朝鮮との交渉するにあたっての中継ぎのバッターかピッチャーのような気がしている。それが終わった時点のツィーターでまた、新国務長官の名前が発表されるか、更迭のメッセージが送られるのはないだろうか?トランプ大統領にしてみればあらゆる状況に秀でた国務長官などありえなくて、状況に応じて選手を変えることで目的を達成するという政治手法なのだろう。マネーポリティクスとはまさにトランプ政治の真骨頂のような気がしている。
 日本人感覚では功績をあげた人材を時局に合わなくなったからといって簡単に首を切るという文化はないのでそれを現実として知ると何とはない違和感を覚えるものである。また、人と人の関係を考えてもそうは簡単に割り切れるものではない。一種の情のようなものが生まれてくる。交代にしてもその功績に報いた交代の仕方があるものではないか、という感慨を抱く。本人に伝える前にツイッターで広言するというやり方に嫌悪感を覚えるのは私だけではあるまい。しかしそれがトランプ流なのであり、彼への批判となっているのはだれもが想像できる。
 もしかすると、これが政治のイノベーションかもしれないなどと新しい切り口を考えてみた。というのが私はトランプ大統領のやり方は間違いなくイノベーションという風にとらえていたからである。イノベーションの定義を「イノベーションとは、個人あるいはその採用単位によって新しいと知覚されたアイデア、習慣、あるいは対象物である」というロジャースの定義に照らし合わせてみると驚くほどトランプの政治手法はイノベ―ティブなのである。その後にこんな風に語られる「新たなアイデアが以前の習慣よりも優れているかどうかという確率は、個々の問題解決者によって初期の段階で確実に知られることはない」トランプ大統領はそれを承知で多分、オバマにはできないという確信のもとでやっているのであろう。
 ただ、間違いないことはこの方法論が一番優れていると本人は思っているが、彼の批判者はとんでもないことをやらかす、歴史上最低の大統領だと思っている。しかし、天邪鬼な私はトランプ批判者の良識的アメリカのオピニオンリーダーたちはもし、トランプ大統領のやり方で北朝鮮の問題が解決したとしたならば何というのだろうかと、ときどき考える。クルーグマン氏のような偏屈者は何とか逃げ道を探すことできるが正統派のトランプ批判者はさぞかし困るのではないだろうか?いずれにしてもこれがモルモット国家のアメリカならでは現実なのである。
 確かに北朝鮮やロシアとやり合わなければならない今のアメリカには元CIA長官のポンぺオ氏は理にかなったものだ。だって、プーチンはKGBの出身なのだから、また、金正恩だって兄をVXガスで殺すような統治者なのである。一筋縄どころか二筋縄にもいかない連中なのだ。確かにそう考えると森友問題で揺れている日本の政治環境は何とも平和そのもののように思えてくる。統治者の奥さんの一言で国が揺れ動いているのだからだ。正直、ちょっと恥ずかしい。

 本題に戻るとスポーツを情と肉の競技から、知と理の競技にしたのがマネーボールのテーマなのであるが、この度のピョンチャンオリンピックでもそのようなことが世界を揺るがした気がする。例の女子パシュート競技での日本女子の活躍である。あの勝利の支えた知と理は大変なもので流体力学を考えたフォーメーションはまさに芸術的というべきで、世界が驚嘆したのではないか?確かにこれもイノベーションだった。面白いことにこの発想はオランダ人コーチが考え出したものであるらしく、スケート強国のオランダをオランダ人と日本人の連合チームが打ち負かしたのだ。何となく、このオランダ人コーチの発想がオランダで受け入れられなかったことも想像がつく。そんなことをしなくてもオランダは間違いなく勝てるからである。
 かれは自分の理論と戦略を完成させるために日本チームのコーチになったのだろう。しかし、今度はオランダでも彼の理論を採用せずには日本に勝てないことを知り、母国のオランダからオファーが来るのではないか?マネースケートになりそうだ。

泉利治

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