ブランドワークス

Column

セルフ・コントラスト・マーケティング

 頭文字をとってSCMと呼ぶこの戦略原理、日本におけるCIの草分けである中西元男氏が創案した事業戦略の考え方である。大きな企業は多くの事業部、多くの商品を持っている。それらの事業や商品に様々な役割を持たせて企業という舞台の中で芝居を演じるよう活動してもらうということで企業イメージを向上させる一つの考え方である。この考え方の要素は分解されてデビット・アーカーのブランドマネジメントの中でも取り入れられている。個々の言い方は違うが考え方の発想は同じである。
             
                

 上の図はその基本的な考え方を図化したもので、たとえば事業なら主力事業、サポート事業、センサー事業、象徴事業。商品ならば主力商品、サポート商品、センサー商品、象徴商品というような言い方になる。
 どんな会社でもその会社の屋台骨を支える商品や事業がある。いわゆる飯のタネのことで売上の大半を占めるような事業部や商品である。たとえばホンダにあてはめると、四輪事業部は主力事業であり、その中のフィットは主力商品である。ではサポート商品は何かというと軽自動車のNシリーズにあたるだろう。最近、このNシリーズは年間売上日本一にもなったので主力商品に格上げされるかもしれない。しかし、この軽自動車のNはやっとここまで来たのだ。ホンダは元来、軽自動車のN360という車やホンダZという見事な軽自動車で4輪メーカーとして産声を上げた。その後、軽自動車は利益率が悪くホンダはそこから撤退し、普通車に専念するようになる。その理由を直接、私は本田宗一郎から聞いたのだがそこには世界をめざすシビックの存在があった。本田宗一郎は軽でも普通車でも部品点数は変わらないが軽自動車には相場があり、価格をあげられない。という技術者というより社長としての苦渋の理由をわれわれの前で語った。
 そんなホンダが省エネ時代の到来で改めて軽自動車を造るようになったのだ。ホンダは軽自動車をセンサー商品として位置付けて他の軽自動車にはないような新しい試み、たとえば軽自動車とは思えない室内空間を創り出して他車との違いを創出したのである。それが認められて売れ始めたことで、その後Nシリーズとしてブランドを統一し、サポート商品に位置付けて資金を投入し、儲け頭である主力商品にしようと考えた。現にかつての主力商品であるフィットより売り上げ台数は格段に多くなった。昔に比べると軽自動車と言っても安く売られることはなくなり、購入者は税金の安さや燃費の良さで軽自動車の価値を見直すようになった。ホンダの新しい軽自動車のNはセンサー商品→サポート商品→主力商品とそのポジションにふさわしい戦略を展開して企業ホンダの経営を支える存在になってきたといえる。主力商品は売上げも大きく、その上、利益率もいいので名実ともに会社を支える商品の役割を担っている。だが、サポート商品は売り上げは大きくともコストも大きい成長過程にある商品なのである。つまり、安定した売り上げをあげられるように販促費をかけるからである。しかし、主力商品として当分の間、儲け頭らになってもらうには、販促費をかけて市場において安定したポジションを確立しないといけない。
 では「象徴商品」とは何か、それはホンダのイメージアップに寄与する商品の事を言っている。本来、ホンダの象徴商品はF1であった。スポーツライクなF1に参戦することでホンダの企業イメージを向上させる?はずなのだが。最近の成績は低迷して、ドライバーがホンダのエンジンなどについて駄目出していることがSNSなどに出るためにあまりホンダのためになってはいないが?
 ホンダはいわゆる華々しい象徴商品もしくは象徴行為で世界に進出していった会社なのだ。ホンダが世界にデビューしたのはマン島で行われるオートバイレースに参加して圧倒的な優勝することで世界のホンダに躍り出たのである。これでまずホンダは2輪車において世界のホンダになり、同じ構図でF1において圧倒的な優勝をして4輪で世界のホンダになったのである。しかし、4輪はオートバイに比べると社会的な構図が必要であった。ホンダはCVCCというエンジンで当時、不可能と言われていたアメリカの排ガス規制であるマスキー法を見事にクリアしてアメリカ市場に鮮烈なデビューしたのである。
 以後ホンダは自動車王国のアメリカで圧倒的な支持を集めることになるのだが、この話は世界を駆け巡りホンダという自動車会社の企業姿勢に誰もが一目置くようになったのである。同じ構図をトヨタはプリウスという自動車で世界に示し売上世界のナンバー1の位置を確保したことになる。ちなみにホンダは新しい象徴商品にホンダジェットを掲げようとしている。この秀逸な商品は世界のどこの自動車メーカーもつくりえない製品だからである。
まさに技術のホンダの面目躍如の象徴商品なのである。
 SCMはまさに本業の商品や事業で会社をドラマ仕立てに演出しながら成長させる戦略なのである。SCMの構造図はこの考え方を分かりやすく説明している。このような考え方で会社経営を考えることがコーポレートアイデンティティの神髄なのであろう。また、これはそのままブランド戦略の本質でもある。

泉利治

Share on Facebook