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Column

ヘルスケアカンパニー

 正月の企業広告は各企業の今年のやる気度をアピールするオンパレードである。とは言ってもそんなに大げさなものはなかった。せいぜい、全国紙の新聞の見開き全紙広告くらいである。表題にあるヘルスケアカンパニーはキャノンの見開き全紙版の広告である。キャノンにしては珍しいと思ったが東芝の医療機器部門を買収したことで本格的にヘルスケアカンパニーをめざすのだなとあらためて思った。
 それにしてもかなり前になるが太陽光発電に取り組むことを新聞広告とテレビCF で正月中長時間にわたり流し続けたシャープに比べれば可愛いものである。あの頃、シャープは液晶技術で世界ナンバーワンの地位を築き上げ、最大の家電カテゴリーのテレビ部門で50%に近いシェアを実現し、BtoBでも液晶パネルの供給ナンバーワンと、まさに向かうところ敵なしで飛ぶ鳥を落とす勢いというのは、こういうことを言うのだなと思い知らされた。
 とは言ってもこの企業そんなに力のある企業ではないという先入観があったので、どうしたものかと思っていた。キャラクターとして吉永小百合を使ったのは液晶テレビの第一号の時からの付き合いなのだろうがその後、シャープの企業キャラクターとして昇格したのだろうか、連日吉永小百合を見るハメになってうんざりしていた。これは多分、私世代の経営トップの差し金だなと思った。どういうものか彼女を自社のキャラクターとして使いたがるケースのほとんどがそこの社長がファンである場合が多いらしい。彼女は私より一歳年上の同世代で、彼女がデビューした番組の「少年ジェット」も見て知っている世代なのである。
 私は彼女よりクラウディア・カルディナ―レの方がいいというタイプだったので、その後の彼女をみるにつけ、昔からの元祖ぶりっ子で70過ぎても変わらんな!という思いだった。だから、カゴメの社長が彼女をCMに使った時に彼女と握手をした手を洗えないな・・・とぼやいていた話を、へえ~という思いで聞いたものである。
 その後あれよあれよというようにシャープがおかしくなり、倒産を免れたものの台湾の会社に買収されるまでの経緯は正直、想像通りであった。シャープはどこで勘違いしたのだろうか?現在もそうだが、簡単に言うと当時のシャープに与えられた課題が少し難しすぎた。つまり、微積分を使わないと解けない問題を算数で解こうとした結果なのだ。
 企業を相手に30年間仕事をしてきたので、企業の力というのが多分に直感的に分かるようになってきた。企業力があったから液晶技術で成功したわけではなく、シャープにとっての液晶技術とは一芸であり、そこだけ突出しただけで会社そのものに普遍的な力があったわけではないのである。それに技術力と経営は違う。シャープは技術で失敗したというより経営で失敗したと言える。液晶の一芸で技術も経営も一流と勘違いしたのである。
 
ヘルスケアカンパニーと言ったのはキャノンである。正月にその広告を見た時、正直、キャノンは凄いなと思った。彼らはカメラ分野でひと世界を創った後、その基盤技術を活用した複写機でそれ以上の世界をつくってきた。その世界は第一ステップのカメラで培った技術を十分に活かせる分野であり、その二つ連携でさらに売り上げを向上させた。それで、その分野はもうこれ以上大きくはならないな、次を考えなければならないと思っていた、そんなときに経営危機に陥った東芝の医療部門が売りに出された。
正月の広告では中央にキャノンブランド付いたMRIが写っている。30年近く前、東芝のMRIのブランド開発に関わったのでなんとも複雑な思いでその広告を見たのだがCANONというブランドはその製品にマッチしていると感じた。キャノンは両手で掴める商品を何十年もつくり、その後、両手でやっと動かすことが出来る複写機を30年くらい手掛け、次に両手でも動かせないくらい大きなMRIをつくるようになる。企業の成長とビジネスの成長がうまくリンクしていた。賢い経営の典型のような気がする。事業の発展に連続性がある。液晶技術と太陽光発電にどんな関連を感じたのであろうか?シャープに欠けていた発想である。
 ただ、キャノンの今度のライバルは少々手ごわいかもしれない。GEやフィリップス、シーメンスなどがライバルになるからである。それは技術も凄いが経営も凄いライバルだからである。ただ、GEの経営は最近少々心もとないが・・・・
 今回の東芝メディカルシステムズの買収額は6600億円という額なのだが、株主総会でその金額の大きさと一見、関連のない事業の買収に“それはファンドの発想なのではないか”と株主から質問があったらしい。御手洗会長はそれに対して、医療分野の将来性からすると、安い買い物だったと答え、その分野は決してキャノンにとって異分野ではないと答えたようである。要するに事業の連続性があるという事なのである。
 キャノンという会社はその連続性をどこよりも大事にする会社なのである。それが分かる典型的なことはCANONというロゴである。最近、どこの企業ロゴも一般書体でつくるようになった。ところがキャノンは頑として独自書体のロゴである。あのロゴは何十年も前から一眼レフの頭についている三角形のプリズムに彫られたロゴの発展形なのである。キャノンという会社はそのようにあらゆるものが連続して発展するものだという基本認識が隅々まで行き渡っている会社なのである。
 昔、そのライバルであるリコーがCIの一環でロゴを変えたことがあった。決まったロゴのRICOHの文字のRだけが塗りつぶされてICOHが白抜きの変わった書体であった。その理由をタイポグラファーから聞いてみると、社長がキャノンのロゴを過剰に意識しておりキャノンのCがあまりにもインパクトがあるのでそれに近いことをやろうとしたのだ。という事であった。しかし、そのキャノンのロゴは一朝一夕にできたものではない。ちなみにその何年か後、リコーはロゴを現在の一般ロゴの書体に変えた。
キャノンは創業時からのCANONの発展形のロゴが燦然と光を放つ。ちなみにキャノンの由来は忘れたがオリジンは“観音”で最初のロゴはKANNONだった。観音信仰というのも、なんとも日本的な会社の連続性なのであろうか。

泉利治

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