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Column

人生を考える

 60年近く前、私は自分の人生を知りたいがために?当時としては大枚1000円を払って、自分の将来を見てもらった。目黒不動の縁日の日だったのでいずれかの月の28日である。
 20歳を迎えた私は自分の将来が知りたかったのだ。その時のことで覚えていることは“あなたは80歳まで行きますよ!”ということであった。当時、日本人の男性の寿命は60歳かそこらだったので長生きするのだ。ということと、今で言うところのクリエティブな分野の才覚があるのでその方面に光明がありますね?という二つのことが印象に残ることとして覚えている。
 
 家業の継承に対して迷っていた頃でもあり、その仕事は自分の本性とは違うのではないか?という迷いに対して、一つの見解を得たかった気がしている。
私は父の立ち上げた新聞販売業を辞める決心を母い伝えて、長年、販売店で仕事をしてくれたベテランの人物に引き継いでもらい、私がデザインカレッジを卒業するまで仕事を手伝うというような形でアルバイトとしてかつての本業をすることになった。
 ただ、そうは言ってもそれから数年はモラトリアムの時期でデザインカレッジを卒業しても就職はせずに音楽大学に行くつもりでフルートとピアノのレッスンに打ち込んでいた。
かれこれ2年位は本格的に毎日5時間以上のフルートの練習と週に3回くらいのピアノの
レッスンに通った。とくにフルートはNHK交響楽団の次席フルート奏者の石原利矩氏に
毎週レッスンを受けた。ただ、彼からは決して交響楽団に入れるなどとは思わないように!
君が街中のヤマハの音楽教師で満足するなら・・・念押しをされた。彼は面白い比喩として“N響が海外演習に行ったりするでしょう?そうすると日本にいるそれぞれの楽器で食べている人は皆、飛行機が落ちないかな、と思っているのですよ”楽団員の欠員が出るからなのです・・・それだけ、日本には洋楽の演奏家の働き口がないからなのです“と言った後に”あなたはデザインの勉強をしてデザイナーとして仕事をすることができるのでしょう?それなら、そちらを本業としてフルートを趣味でやればいいのですよ?“
その言葉の現実味はその世界の厳しさ、つまり日本におけるその分野の仕事が少ないことを意味していた。それ以上の私の能力でそれで生活をする厳しさを言いたかったのであった。それから1年くらいした夏に私はフルートを持たないで最後のレッスンに行った。
先生は驚いたようではあったがすぐい察して、彼はコーヒーを入れてくれていわゆるこの世界で食べていく厳しさをしみじみと語ってくれた。
 
 その年の秋に私は運よくデザイナーとしてホンダランドテックプロダクションという、ホンダグループの中で一番大きい会社にデザイナーとして潜り込むことができた。11月1日の初出勤日の最初の仕事は晴海で開催していた自動車ショウを観に行くことであった。自動車のデザインを専攻していた私に天は味方をしてくれたのであった。ここではデザイナーの仕事以上にビジネスの世界を知ることになるのだが、ここでの13年間はどれだけ価値のあるものだったかわからない。というのは世界に冠たるホンダイズムというものを体質化することができたからである。
 また、ここでの体験と実績は社会人としての私の存在を創り上げたのだろうし、それ以上に私の価値を創り上げた。つまり、HONDAというブランド価値と言えるだろう。学歴のハンディをHONDAというブランドが補ってくれたのである。その後の人生ではそのブランドが私のハーバートビジネススクールを卒業した以上の力を発揮してくれたのである。そのお陰でそれぞれの時代の花形企業で仕事をすることができたからである。3番目に仕事をした
たとえばこんな体験をした。私の仕事先の3社目の世界的なブランドコンサルティング企業のインターブランド社で仕事をしていた時、マッキンゼー社とのコンペになった。クライアントはそれぞれ自社プロジェクトを担当する依頼先のコンサルタントの責任者であるプロジェクトのリーダーの学歴や職歴を調べた。その結果インターブランド社を選択した。理由はプロジェクトリーダーがメーカーの仕事をどれだけ理解してもらえるかであった。ハーバートビジネススクールで学んだ彼とHONDAという企業で仕事を学んだ私の対決であったのだった。その会社の花形事業である事業部長の判断の基準はそこにあったのだ。後で彼はこう言っていた、
“メーカーの仕事内容をどれだけ理解して対応してもらえるかで選んだのです・・・”
ビジネススクールでの最先端の知識より、優秀なメーカーでの実際の体験の中で学んだ人の価値を重視した結果であったのであった。私は学歴ではなく、職歴の人間なのだとつくづく思うようになった。
                           2026年5月11日>IZT記

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