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Column

ミニ

 表題のミニと聞いて自動車のミニを思い浮かべる人は相当な車好きである。そう、世界の自動車史に燦然と輝くアレック・イシゴニスという稀有の天才がつくり上げた小型自動車のことである。この名車をセカンドカーにしたという話なのだが、あらためてこの自動車に乗ってみて、その見事ぶりに舌を巻いたというのが正直なところである。
 娘が約半年かけて免許証を取得した。本当に取れるのかな?と思いながら見守っていたのだが実家に戻って来て、自動車が買える背景が整ったということもあるが自動車を買ってあげるというのは免許証を取得するモチベーションとしてそれなりに効果をあげたようである。しかし、もう一台の自動車を持つということの経済的負担はかなり堪えるということで、100万円以内で購入できる自動車という条件でともかく進めようということになった。
 ところが諸経費込みで100万円以内の車というのは今の時代かなり酷いものであることが分かってきた。というのは昨今、低価格車として思い浮かぶ軽自動車でさえ100万円以内で買えるものはなく、先日、ガリバーで見た中古のホンダNBOXでさえ125万円もするのである。
 そんなことから自動車選びに入る前にそれまで待てないとのことからレンタカーで運転しようということになった。娘が運転したホンダフィットは完全な新車でメーターは70キロかそこらのもので、室内は新車の匂いがプンプンする代物。カーナビも最新で見やすく、声による案内も親切そのもの、私の10年前のそれとはかなりの違いがある。鎌倉から横浜の元町まで娘の車に便乗し、教官よろしくの指導?
 そんなことで試乗するのは良いことだなと思いなおし、じゃあ、近くにあるミニの販売店に行ってみるかということになった。雨が降っている販売店、客も一組くらいしかおらずBMWで乗り付けた父娘を見て、これは上客に違いないと思ったのか試乗しませんかということになった。また、運転ができると大喜びの娘と一緒にこの名車に乗り込んだ。
 その前にミニと云う名前に似ても似つかない車になってしまっていることにまず驚く。フロントなどの幅は私のBMW330よりも広い気がする。全体的に私の車より大きなボリュームで迫ってくる。販売員いわく「安全基準を満たそうとすると、どうしても、大きくなってしまうのですよ・・・」しかし、乗ってみるとその室内のデザインに驚いてしまう。なんと素晴らしいインテリアか、ことばを失うくらい見事である。昨日のフィットと同じ新型車であるが、デザイナーの能力の差というものに愕然とする。
 家に帰る道すがらいい車だけど、金額的にも、ボリューム的にも現実的ではないねと話しあう。というのは鎌倉の道は狭く、冗談ではなく、鎌倉で乗れる最高級車は私の車なのではないかと思っていた。というのはトヨタのクラウンでさえ我が家の前の道には大きすぎると感じるくらいだからである。
 現実的な選択肢で考えられるのは日本車の小型中古車。娘と話しているうちに軽自動車は嫌だという。ということで娘のお気に入りが日産のマーチであることが分かってきた、気に入った理由は外観が可愛い普通車であるからである。ということで程度のいい車をネットで探して都築まで見に行く。価格、年式、走行距離も気に入り、ネットの写真で見る限り室内もなかなか良く、まだキレイである。しかし、娘と共に実車の室内に入って、愕然とする。その室内が何ともチープなのである。私がホンダにいた時代に会社にあった軽トラックTN360 を思い出したくらいである。つまり、40年前の軽トラックのインテリアと共通したニオイがしたのだ。こりゃ、駄目だな!と思い次の策を考え始めた。
 じゃ?ミニの中古車・・・買えるのかな?そもそも、私の自動車を買うスタイルは新車で買って乗りつぶすタイプでホンダアコード→ゴルフGTI→BMW328→BMW330 をそれぞれ10年づつ乗り継いできたのである。中古の外車などどうやって購入したらよいのか、それも諸経費込みで100万円以内で?というのはミニの販売店に行った時に、その販売店のユーズドの店に行ったのだが、そこのミニは全て200万円前後。私はおずおずの店の人に聞いた。
「何でこんなに高い中古車しかないのですか?」
「うちは経歴が間違いのないミニしか取り扱わないので・・つまりこういうことなのです」
要は簡単で自社で売って、そのメンテナンス等も自社でやったミニだけを売るということなのだ。氏も素性も間違いのないものばかりということなのだ。
 家に帰りネットでミニを見てみるとその価格帯は2,30万円台からあるではないか?
しかし走行距離を見てみる12.8万Km?・・・写真はきれいでもこれは無理だ!私の車は10年乗ってはいるが走行距離は5万キロである。しかし。調べているうちに先日試乗したミニよりも、10年前のミニの方がミニらしく思えてきた。その明らかな証拠は5ナンバー車なのである。ちなみに今のミニは3ナンバー車で値段も400万円を超える。かつて言っていた”プレミアムスモール”というコンセプトはどこに行ってしまったのかという感覚である。
 私たちは2台のミニに焦点を絞り綾瀬と鵠沼海岸に見に行くことになった。綾瀬と言っても藤沢の隣なのでたいした距離ではないだろうと高をくくって出かけたが1時間では着かなかった。思いのほか藤沢市が大きかったのだ。しかし、小雨の中販売店に行くとお目当てのミニは野外ではなく、室内に綺麗に展示しているではないか。ボディカラーはクリーム色。外観色は娘の好みであったらしい。その上、その大きさ、まさにミニである。新型のような巨大さはない。運転席に座るとそのデザイン、パネル、シート、サイズ等すべて、プレミアムスモール。とくにシートはBMWらしく、わたしの330と同じ時代に製造されたのでおなじファブリックシートなのである。物心ついた時からドイツ車に乗っている娘が気に入らないはずはない。即決で契約となる。
 デザイナーとしてこの車を見ると何ともレベルの高さばかりが目に入って。今回一番感じたことは日本車のインテリアデザインのレベルの低さである。私が思うにこれはデザイナーのレベルではなく、そのデザインを採用する意志決定のレベルの低さのような気がしないではない。
 私のデザイナー人生のほとんどをそんな時代の中で苦闘した人生であることをあらためて再確認してしまった。

泉利治

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