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Column

パイプライン

 私の世代では10代の頃にエレキギターブームがやってきた。ベンチャーズというエレキギターインストルメンタルグループが火付け役と言われているが、厳密にいうと本当の火付け役はやはり、ビートルズなのではないかと思う。ビートルズはそれまで一般的な少年たちが見たこともないエレキギターを肩にかけており、独奏楽器であったギターを合奏楽器にして魅力的な音楽を奏でていた。
 ビートルズはリバプールサウンドと言われており、その後、立て続けに似たようなグループサウンズが生まれたが、その音楽やグループに熱中したのは基本的に女の子であった。男の子は彼女たちに比べると彼らに対しては冷ややかな気がしている。その後、エレキギターという共通点のみでアメリカのベンチャーズが出てきた。ベンチャーズとビートルズをはじめとしたイギリスのグループの根本的な違いは、ベンチャーズは歌わないということと、そのメンバーは女の子が夢中になるようなタイプの人たちではなかったことだ。
いわゆる、4人組のオジサンたちである。
 ベンチャーズが男の子たちを魅了したのはズバリその楽器の持っているサウンドである。
そして、その先が女の子と違う行き方だったのだが、男の子たちはその楽器を所有して自らその楽器を弾こうと試みたことである。女の子たちはそのグループメンバーに夢中になり、レコードかったり、ブロマイドを集めたり、コンサートに行ったりなどが行動としておこなったことなのだが、そのあたりが男女の違いになるのかもしれない。男の子たちが楽器を自ら演奏しようと思った背景にはそれらの英語の歌はメロディーとしては分かっても、歌詞のところまで分からないし、自分で演奏するにはハードルが高かった。
 その点、エレキサウンドは楽器を買いさえすればベンチャーズもどきの演奏が短期間で可能になる。私はエレキギターを買うことができなかったが友達の練習風景を見に行ったとき、おお、ベンチャーズみたいだな!と正直に思ったものである。私はギブソンJ-45擬きのギターを持っていたのでそのホールにギター弦の音を拾う簡易エレキマイクのような器具を1万円くらいで購入し、エレキサウンドを楽しんだものであった。そして、いずれ本物のエレキギターを買おうと思っていた。
 ベンチャーズのレコードは最初LPを買ったがその後はシングル盤を気にいった曲が出る度に買ったようである。ただ、今から考えるとその曲はビートルズの曲に比べると分かりにくいタイトルのものが多かった。たとえば今となっては常識だが当時、「ダイアモンドヘッド」という曲の意味が分からなかった。SNSもない時代それを知るにはレコードを買ってその解説を読まないと判らない。
 本タイトル、「パイプライン」もそうだ。今から半世紀も前の都会に住む少年にとって、ダイアモンドヘッドやパイプラインはPlease Please MeやLove me Doより分からない。しかし、その後、エレキギターを買うこともなく、ベンチャースも過去の思い出になってしまい、社会に出ていつだったか忘れたがハワイに行ってダイアモンドヘッドを目の当たりにして、これがダイアモンドヘッドか!ということが分かった。この曲、ベンチャーズのオリジナル曲ではないことを知ったのはこのコラムを書いて調べたのでわかったが、作曲者のDanny Hamiltonのオリジナル曲を聞くことができなかったがそれより、ベンチャーズによって有名になった曲である。

 ここ数週間、サーファーであった友人が亡くなって、朝早く起きると海沿いの道を走ることが多くなった。考えてみれば鎌倉に住んでいるので10分も走れば海を見ることができる。海沿いの道と平行に走っている道を終わりまで走ると腰越の電車道にぶつかる。そこから左に入るとレールをまたいで小動岬にぶつかる、そこから海沿いの長い道は今となっては国際的な観光道路である。しかし、朝早くだと車も人も少ない。私はサンルーフを開けて、窓を両方開けその道を走る。台風10号の影響か波が高い。稲村ケ崎を見やると大きな波のせいか波霧が発生して、暗い岩肌を淡いグレーにしている。少し走って七里ガ浜の信号で止まって海を見やると同じ高さの一直線の波が小さな丸い空間を作って左に移動していった。“これが、パイプラインだ!”一直線の長い白いパイプのようなそれを見たのだ。その切れ端を見る限りその白い波の中は空洞になっていた。
 そんなもの東京に住んでいればわかるはずはない、特別の人でなければ。そう、サーファーしか!今から50年も前にパイプラインという意味を分かった人が何人いたろうか。あの頃、まず、サーフィンなんて言う概念はあったのだろうか?ただ、波乗りと言っていたかもしれない・・・
場所によってはもっと大きいパイプラインを見ることができるのだろう。50年前と違ってユチューブでそのようなパイプラインを見ることができる。友人の葬式の控えの席で生前の彼がどこか外国の海の巨大なパイプラインの上を巧みに乗り切っている映像を流していた。その時、随分とうまかったのだなと改めて思ったが、多分、今頃どこかの海のパイプラインを巧みに乗りこなしているのだろうなとあらためて思った。
 エレキギターというのは海と結びつく楽器なのかもしれない。あのテケテケテケ・・・という独特なサウンドはパイプラインを彷彿させないこともない気がする。あの、波が移動する様はあんな音がしそうである。ダイアモンドとパイプラインがハワイと結びつくがこんなことに気づくのに50年の時間をようするのである。
                                 文責:泉利治

2019年8月19日 

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